『Hanako』が絶好調 “雑貨化”する女性向け情報誌とは!?

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有名雑誌の休刊が相次ぐなど、雑誌とりわけ情報誌が伸び悩みを見せる中、「Hanako」(マガジンハウス)の売り上げが好調だ。部数不振をきっかけに誌面のリニューアルに取り組み、昨年7月のリニューアル号(7月24日発売号)で9万部を完売した。


『Hanako』が絶好調 “雑貨化”する女性向け情報誌とは!?
nikkei TRENDYnet3月30日(月) 17時52分配信 / エンターテインメント - エンタメ総合

 有名雑誌の休刊が相次ぐなど、雑誌とりわけ情報誌が伸び悩みを見せる中、「Hanako」(マガジンハウス)の売り上げが好調だ。部数不振をきっかけに誌面のリニューアルに取り組み、昨年7月のリニューアル号(7月24日発売号)で9万部を完売。1万部を増刷したのを契機にその後、月に1冊のペースで完売・増刷が出ているという(「Hanako」は月に2回発売)。好調ぶりから透けて見える、情報誌に対する現在のニーズを同誌広告、ブランディング担当副編集長の戸高良彦氏に聞いた。

敏腕編集長が放った“ド直球”

 昨年のリニューアルにあたり編集長に北脇朝子氏が就任した。北脇氏は約3年半にわたって「Hanako West」(関西版「Hanako」)で編集長を務め、部数を伸ばし続けた実績を持つ。その功績を買われてのことだったが、社内外からは当初、関西出身の編集長が東京の女性の感覚をつかめるのかに疑問の声もあったという。これを払しょくしたのが、北脇氏が就任直後に編集部内に向けて発表したというリニューアル号の「見本誌」だ。

 見本誌は、表紙のデザインや特集のタイトルはもちろん、全ページにわたり写真や文章などを本物と同じように配置・構成したものだった。「写真を(取材で撮影した)実際のものに差し替えれば、すぐに発売できるほどの出来栄えだった。かねてからの「Hanako」の最大の課題であるデザイン統一をクリアした内容でもあり、イケると直感した」という。

 北脇氏がリニューアル号の特集として提案したのは「東京カフェ案内」と題したカフェ特集だった。これまで既にさまざまな媒体で特集が繰り返され、語り尽くされた感のある「カフェ案内」。そこをあえて狙った北脇氏の読みが当たり、リニューアル前までの約2倍の部数を売り上げる大成功を収めた。この理由を戸高氏は「特に今の東京の(媒体の)作り手は情報をひねろう、煽ろう、どうにかトリッキーに見せようと色気を出してしまう。北脇がてらいもなく真ん中にストレートを投げたら、そこが空いていたということでは」と分析する。

 内容に加えて、北脇氏特有の誌面の作り方として、写真選びとレイアウトに時間をかけるという点がある。1枚の写真を選ぶのに5分、見開きのレイアウトに 1時間かけることはザラだというこの作業により、「念がこもる」のだという。これは、リニューアル後の方針の一つである、「よりビジュアルを重視した誌面構成」とも関係する。

 ビジュアルを重視することで、「雑誌の“雑貨化“が起こる」と、戸高氏。「単に情報を得るための媒体ではなく、“眺めていて楽しい”“生活空間に置いておきたい”“何度でも触れたい”と思わせることに成功したのが今回のリニューアル。つまり『雑誌の雑貨化』を起こした」。この仕掛けが、北脇氏特有の誌面構成というわけだ。このほかにもビジュアル面強化の一環として、創刊時から続いていた表紙のケン・ドーン氏が手がけるイラストを写真に変更するとともに、判形もワイド判に変更。「そんなに大きな雑誌を東京の女性は持ち歩かないのでは」という不安もあったが、結果的に「雑誌メディアの特性であるストーリー性、紙の触感、めくるリズム、所有することで喚起される気分」を強調することとなった。

 さらに、1冊の特集に多数の編集者がかかわるこれまでのシステムを廃止した。この手法は、同社の人気雑誌「BRUTUS」の編集部でも以前から行われ、効果的だったものだ。社員編集者1人が一つの特集をすべて担当し、多数のスタッフ全体の動きを常に把握することで、特集テーマの軸がぶれず、誌面に統一感が生まれるという。こうすることで、編集者の誌面に対する責任を自覚させ、自立を促すこともできる。

 ビジュアルを重視し、内容にブレのない特集を掲載した結果、以前は書店で週刊や月刊の情報誌と並べられることの多かった「Hanako」が、今ではビジュアルを重要視したファッション誌と並ぶこともある。職場の昼休みや電車内だけで「Hanako」を読んでいた読者が、家に持ち帰って読むようになったという変化もあるという。また、ネット販売を通じて地方から購入する読者も増えている(セブンアンドワイの雑誌売り上げで同誌は上位に上がることが多い)。これらのことからも、単に情報を入手するためのツールとしてではなく、まさに“雑貨”のような感覚で女性からの支持を集めていることが分かるだろう。

これまでになかった「価値観」の提示

 「見せ方の工夫を行っているだけで、テーマなどやっていることは以前とほぼ同じ」というが、中には一風変わった取り組みもある。2009年1月22日発売号の特集は「東京いい男カタログ82人」。東京で働く一般の男性82人を職業別などで分類し、写真と生年月日・血液型・身長・勤務エリアなどのプロフィールを載せた。読者モデルではない一般男性の特集は、20代以上を対象とした女性向け情報誌としてはかなり異例だ。

 これには、新年にあたり、少し変わったことをしてみようというほかに、“口コミで広がるパワーを試したかった”ということもあるという。82人の男性の周囲にいる女性が「知人を見たくて手に取る」こと、そして「共通の知人に話す」ことを狙った。実際に特集に登場した男性の一人、制作会社に勤める下元陽さんは「誌面に出たことは特に話さなかったが、4、5人の知人女性から『見た』と連絡があった」という。

 プロフィールに本人のコメントだけではなく、所属する会社の上司からのコメントなども掲載することで、会社内だけでなく仕事関係でも話題になることも視野に入れた。特殊な例ではあるが、登場したスポーツメーカーの男性は、WBCで来日中のイチロー選手に「Hanako見たよ」と声をかけられたのだという。

 このほか、目次よりも前に1ページずつ「ECO LIFE」「CAFE LIFE」「FOOD LIFE」と名付け、各分野の精鋭クリエイターと写真家がコラボレーションした連載も用意した。これは「ビジュアルレベルとターゲットにブレがあったこれまでの『Hanako』ではできなかったこと」。東京のカルチャーを牽引するクリエイターを目次より前のページに登場させ、より明確に同誌のライフスタイルに対する価値観を提示する。

 「ECO LIFE」はスタイリストの堀江直子さんと、写真家の大段まちこさん、「CAFE LIFE」は家具・雑貨ショップ「プレイマウンテン」を展開する中原慎一郎さんと清水奈緒さん、古賀千恵子さん、「FOOD LIFE」はフードディレクターの野村友里さんと長島有里枝さんが担当。4月からは「FASHION LIFE」として、スタイリストの菊池京子さんと白川青史さんの連載もスタートする。

 今後は、後半にある読者のフリートークページ「東京 OL ソサエティ」を拡充予定。「いい男特集」は例外として、通常の特集などでは店舗の内観写真に人を写りこませないなど、「人」はあえて排除して「空間」に焦点をあてる誌面構成としているが、この連載では実際の読者ターゲットであるOLが登場する。毎回のテーマに沿ってコスメや雑貨などのアイテムについて話し合うこのコーナーを通し、「東京の女子の勢いを表現し、さらに誌面に動きを出したい」という。

広告枠も「『Hanako』の世界観で」

 リニューアルに伴い広告も様変わりした。情報誌に掲載される広告で求められるのは、分かりやすく、そして記事と同じような情報の細かさ。一方、ファッション誌の場合は、雰囲気でその商品の魅力を伝えることが重視されることが多い。現在の「Hanako」は情報誌の枠を超えて、ファッション誌のように誌面デザインでも勝負しており、クライアントから「『Hanako』の世界観でお願いします」と言われることも増えているという。

 商品そのものだけではなく、余白の多い写真を盛り込んだ広告が増えている。「余白を含めて撮るのは、生活感と実用感も含めて撮影するということ。『Hanako』が提案する生活スタイルや誌面の雰囲気を良いと感じてもらえたのだと思っている」。2008年末号で、パナソニックEVOLTA乾電池と充電器のタイアップ広告を掲載。続いてソフトバンクの携帯電話の広告タイアップでは、カフェイベントも行った。また、そごう・西武百貨店のミレニアムリティリングや六本木ヒルズとの年間タイアップも進行中だ。

 同誌の読者層は、かつて「Hanako族」と呼ばれた45歳前後、その下の世代の35歳前後、そして25歳前後と幅広いという。異性にモテることを意識するよりも、自分の時間を充実させたいと考える働く女性がメインターゲットだ。「雑貨を見て『かわいい』と感じたり、友達とカフェでお茶をすることで癒やされたり、何歳になっても女性が持つ『女子的な感覚』はそれほど変わらない。アッパー過ぎず、チープ過ぎず、東京に暮らす女性が『心地良い』と感じることを伝えていければ。そして、その感覚を分かったつもりになることなく『どう伝えるか』に腐心し、時間を割くことを続けていきたい」と、戸高氏は話す。

 北脇氏が「(1枚1枚の誌面の細部にまでこだわる)愚直なまでの編集スタイル」と言い切るという編集方針と、「不況であるからこそ、時代に必要なモノは残り、必要以上のモノや本質をとらえていないモノは淘汰される」という戸高氏の言葉から確かな自信を感じた。

(文/小川 たまか=プレスラボ)

個人の意見

紙媒体の成功例ですね。
ヒントが詰まっている気がします。