1月28日9時20分配信 ITmedia エンタープライズ
数年前に定義されたソーシャルメディアが静かな湖だとすれば、現在のソーシャルメディアは多くの海流によって常に変化している大海だ。この違いが理解できないと、ソーシャルメディアマーケティングは成功しない。
数年前に定義されたソーシャルメディアが静かな湖だとすれば、現在のソーシャルメディアは多くの海流によって常に変化している大海だ。この違いが理解できないと、ソーシャルメディアマーケティングは成功しない。
●ソーシャルストリームとは
現在のWebの特徴の1つとして、同一のWebサイトという置き場所にデータが常にとどまっているような静的な状態から、無数のWebサイトをまたぐようにデータが流れていく動的な状態に変化していることが挙げられる。これを「ソーシャルストリーム」と呼ぶ。ストリームは、細小粒度の情報群をリアルタイムに世界中に伝達する仕組みとその現象を指す。
ソーシャルストリームによって、mixiに書いた情報がブログで話題になったり、TwitterやFacebookでも同時に読まれたりするようになった。Web上のトラフィックは均等に整然と流れていくものではない。分散したり、どこか1カ所に殺到したりする。この動きを完全に操作するのは不可能だ。このソーシャルストリームの顕在化こそ、現代のソーシャルメディアの最大の特徴である。それを理解しなければ、ソーシャルメディアマーケティングを成功させることはできないと言っていい。
ストリームを技術的に見ると、短いエントリー、パーマリンク、引用された短縮リンク、タグを非常に速い速度で配信し続けるものだ。同時に、APIとフィードを使ってほかのメディアでも利用できる標準フォーマットとなっている。Twitterは、ストリームの構造をそのままサービス化したものと言い換えられる。
●Twitterはソーシャルストリームの申し子
TwitterはWebを静的な固まりから動的な流れに変えつつあるWebサービスだ。Webサイトのような場所、リストのようなWebページという概念は、ソーシャルストリームに代表される時間的な概念に変わりつつある。従来のWebサイトは、同一のサービス提供者のサーバ群を管理する担当者がコントロールできるコンテンツの置き場所でありリストだった。今、Webは複数のサービス提供者が管理する不特定多数のサーバ群を流れていくさまざまなデータの流れそのものになっている。
ブログもこの感覚を持ち合わせている。エントリーを時系列順に表示するのはその現れだ。だがブログは普及するにつれて、余計な機能が付加されていった。当然ツールは重くなり、ブログは流れよりも場を作るものに変わった。
逆にTwitterは、ブログのエントリーよりもさらに小さく細かい情報単位で投稿できる。140文字制限という不自由さをユーザーに強いることで、より多くの情報をWebに流入させることを担保したのだ。時系列順に情報を表示するためだけの機能にフォーカスすることで、かえって多くのユーザーを獲得するに至っている。
ストリームは、SNSの世界でも注目を浴びた。Facebookが、参加者のアクティビティを時系列順に表示するニュースフィードというサービスを採用したからだ。Twitter以外では、米GoogleのOBが創業したFriendFeedが、複数のソーシャルサービスにまたがる自分の活動履歴を一本化して配信するサービスを始めている。ストリームという概念は、これからのWebの潮流であることが明確になりつつある。
その勢いは日本国内にも波及している。ストリームに似たサービスとして、mixiボイスが始まった。グリーも日記のような古い形式のデータ記述方式でなく、ストリーム関連のサービスに移行すると発表した。ブログサービス「アメブロ」の黒字化を果たしたサイバーエージェントまでが、Twitterに似た「アメーバなう」というサービスを開始している。
ソーシャルメディアマーケティングとは、ソーシャルメディアに合った新しい武器を活用して、競合他社を出し抜く戦略と戦術だ。ソーシャルメディアはTwitterの登場以降、マーケティングファネルの中の動きをほぼリアルタイムにデジタル化し始めている。
ソーシャルメディアマーケティングという言葉自体は、実は新しいものではない。ブログやSNSが台頭してきた2006年あたりに、既に存在していたと思われる。だが、2006年時点と現在とソーシャルメディアは、その構造や性格、役目がまるで異なる。2006年のソーシャルメディアが静的な湖であるとすれば、現在のソーシャルメディアは激しい海流が吹き荒れる大海だ。
動画共有サービスではYouTubeが有名だが、日本では動画にリアルタイムにコメントを投げ込めるニコニコ動画が台頭している。世界では、2007年 3月に設立された「Ustream(ユーストリーム)」というライブ動画共有サービスが急成長を果たしている。ニコニコ動画とUstreamに共通するのはリアルタイム性だ。特に、UstreamはiPhoneという強力なパートナーを得たことで、動画のリアルタイム配信(ライブストリーミング)のインタフェースとして、非常に強力な存在となった。YouTubeが動画の世界のブログとすれば、Ustreamは動画の世界のTwitterといっても過言ではない。
写真共有サイトではFlickrが代表例だ。だが今は「Twitpic」などTwitterに画像を投稿する補助ツールとして生まれた画像共有サービスの勢いが強い。ここで存在感を示しているのも、TwitterとiPhoneとの組み合わせだ。
従来のソーシャルメディアマーケティングは、こうした古い認識を基に、静的で動きの遅いソーシャルメディアを意識して構築されていた。だが湖と海では生態系が異なり、釣りをするにしてもやり方に工夫が必要とされる。企業が追いかけていくべきなのは、新しいソーシャルメディアに対応したソーシャルメディアマーケティングであることはいうまでもない。【小川浩】
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