追跡・発掘:渓流魚、放流承認制 効果に期待と疑問も 天然種保護へ啓発


毎日新聞 11月23日(水)11時37分配信

 県レッドデータブックで「絶滅の恐れのある地域個体群」とされる渓流魚の天然種を保護するため、県内水面漁場管理委員会は先月、ヤマメやイワナ、アマゴの放流を承認制とすることを決めた。放流承認制は全国初で、従わなければ知事が是正命令を出すことができる。県内各地で放流による交雑で減少する天然種。承認制実施によって、天然種保護にどれだけ効果が期待できるのだろうか。【水脇友輔】

 県水産技術センター職員の坪井潤一さんは7月、衝撃を受けた。甲府市の昇仙峡上流の川で、昨年駆除したはずのニッコウイワナが確認されたのだ。この一帯はヤマトイワナの生息域であり、同じイワナでもニッコウイワナは元々いない魚だ。

 この川のヤマトイワナは大きいもので体長25センチ。駆除されたニッコウイワナには約40センチの大物も。「あまりに大きいとイワナイワナを食べてしまう」と坪井さん。駆除した1匹の腹には約600粒の卵があった。駆除しなければどんどん増えてしまう。坪井さんは承認制実施を「画期的な取り組み。在来遺伝子を守る第一歩」と評価する。
   ◇  ◇
 県内の渓流魚で「絶滅の恐れのある地域個体群」はヤマトイワナ、ニッコウイワナ、ヤマメ、アマゴの4種。山梨県はこの2種のイワナ、ヤマメとアマゴの各生息境界上にあり、4種が生息するのは全国でも山梨だけだ。
 ヤマメとイワナは標高600~1000メートル、アマゴはそれ以上に生息する。同じ県内のヤマトイワナでも、生息域によって遺伝子型が異なり、交雑すれば固有種ではなくなる。
 同センターによると、放流は80年代に発達した養殖技術によって増加。人があまり入らない上流に自分の釣り場を作り、大きく育った魚や他の川の魚を放って釣りを楽しむ愛好家も多いという。
 県と山梨大は96年からヤマメやイワナの生態を調査。富士川水系では、環境条件的に生息可能域のうち、イワナは2・35%、アマゴは0・73%でしか確認できなかった。
   ◇  ◇
 県は、放流しないよう呼びかける看板を川の近くに立てたり、釣具店にチラシを配布したりして啓発活動を行ってきた。しかし、放流が疑われるエリアは、同センターが今年に確認できただけでも3カ所。同委員会事務局の県花き農水産課は「放流して『魚を増やすことは良いこと』と思っている釣り客も多い」と頭を悩ます。
 承認制では、まず県に問い合わせ、県が場所や魚の種類などを基に地域個体群データと照会。影響がないと判断されれば許可される。漁協による放流や釣った魚をリリースすることは認められる。
 ただ、県や漁協が十分な監視をするのは難しい。地域個体群の生息域は上流にあり、車で近づけない所も多い。監視要員の漁協関係者の高齢化も進む。同課は「一度交雑すると元に戻せない。正しい認識を持ってもらえるよう啓発を続けていく」と話している。
   ◇  ◇
 名城大理工学部の谷口義則准教授(魚類生態学)は「新しい試みではあるが、悪意を持つ人を止められるのか。漁協の放流が認められていることにも違和感がある。海外では公的機関のみ放流が認められている国が多い。原則禁止とすべきだ」と指摘している。

11月23日朝刊

個人の意見

>この川のヤマトイワナは大きいもので体長25センチ。駆除されたニッコウイワナには約40センチの大物も。「あまりに大きいとイワナイワナを食べてしまう」


 人が関わってしまった自然は、人が関わる事でバランスが保たれるようになってしまい、それを境に未来永劫関わり続けなくてはいけなくなるのかも。