その放流、大丈夫?


毎日新聞 6月3日(日)11時51分配信

 間もなくホタルが舞う季節。幻想的なホタルが見られる場所を増やそうと、全国各地で餌となるカワニナやホタルの幼虫が放流されている。「ホタル舞うかつての自然を取り戻したい」という思いから行われる放流だが、思わぬところで生態系へ影響が及ぶケースもあるようだ。外来種の魚などを含め、放流が招く影響について専門家に聞いてみた。【梶原遊】
 昨年11月、海津市の中江川で、アマゾン川流域原産のナマズの一種「プレコ」が見つかった。観賞用熱帯魚として人気があり、意図的に川に放流された可能性が高い。神奈川県厚木市の水路では、今年5月にピラニアが見つかった例もある。飼い主の無責任な放流による生態系への影響が懸念されている。
 また、フィリピンでは、水中の藻類をこそげ取るように食べるプレコの習性を利用して川を浄化しようと放流したが、藻類を食べ尽くしたプレコが在来種を食い荒らす結果になったという。外来種の放流は、予想外の影響をもたらすことがある。
 岐阜経済大の森誠一教授(環境保全学)は「厄介なのは、本来その地域にいなかった種が根付くこと。『ここの川にいないけど、あそこの川にはいる』という状態になってしまう」と話す。琵琶湖産の稚アユが各地で放流される際にオイカワなどの魚が混ざり、放流された先で近縁種と交雑が進んでしまっているという。
 愛知県岡崎市のメダカの生息地では、メダカによく似た北米原産の外来種カダヤシが誤って放流された。その結果、繁殖力と適応力の強いカダヤシが優勢になったという。森教授は「放流による保全を考えるのではなく、在来種が減った原因をまず探るべきだ」と話す。
 岐阜大地域科学部の向井貴彦准教授(生物学)はカワニナの放流にも疑問を呈する。「生態系そのものはすぐには変わらないが、無秩序な放流でそこに昔何が生息していたのかがわからなくなる」と指摘する。
 種が絶えてしまうと、個体を増やす手段は放流しかない。しかし、わずかでも個体が残っているケースが大半という。それを足がかりに個体数を増やすことができる。向井准教授は「まず、個体が生息できる環境を考えるべきだ。無秩序に放流して人間の自己満足で終わっては、何も守れない」と話す。
 亜熱帯にすむナマズと亜寒帯に生息するハリヨ。県内ではその両方を見ることができる。「両系統が共存できるという生物多様性がある」と森教授は、県内の川の恵みの豊かさを強調する。配慮を欠いた放流は、この豊かな自然のバランスを狂わす危険性を秘めている。向井准教授は「正しい知識を得た上で、放流がもたらす負の側面にも目を向けてほしい」と話す。

6月3日朝刊

個人の意見

 魚の放流で起こる、自然界への影響。
国内でも、西日本の魚を関東へ持ち込むことですら生態系に問題が起こります。

 それゆえに、随分前から外来魚だけの問題じゃないと考えるようになり、軽々な発言はしないように気をつけています。

 深い思慮の上、言葉を選んで語らなければいけないし、まだ発言するには情報が足りません。