『メタルめし!』



HONZ 6月1日(日)11時1分配信


2014年、ヤンキーがマイルドと認定されたこの年、メタルはもっとワイルドになった。

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ポエムではなく叫びを、イオンタウンではなくイアンギランを、仲間との絆ではなく仲間割れをこよなく愛す。そんなメタラー達の魂を熱く揺さぶる新ジャンル、それがメタル×めし。

はたしてメタルスライムはぐれメタルに次ぐ、メタルの新機軸を打ち出せるのだろうか。

著者は料理研究家ならぬ、料理勉強家の”ヤスナリオ”氏。ごはんを通じてヘヴィメタルを浸透させるべく考案されたという、全66点に及ぶダジャレシピの数々。その中から選りすぐりの一品を、コース料理風に紹介してみたい。

◆前菜×AEROSMITH

前菜の役割とは、ずばり「食欲を駆り立てること」。本来は、彩りを考えながら、味付けや香辛料などでアクセントを付けることが求められる。だがそれだけで、メタラーの欲望を満たすことなど出来はしない。となると、食欲を駆り立てながらも、同時に満たしていくよりほかはないだろう。

「和えろ酢みそ!」の掛け声とともに登場したのは、「Pork This Way」。焼いた豚バラ肉を、和えた酢みそだれで味付けした一品。これをスティーブン・タイラーばりに大きく口を開けて、かぶりつく! 

◆サラダ×GUNS N' ROSES

空前のヘヴィメタルブームが巻き起こった80年代。いつだってその中心には、Guns N' Rosesがいた。ロック史上に燦然と輝く名盤のオープニング曲を聞きながら、勢いを付けていきたい。"The Spaghetti Incident? "を、付け合わせ的に楽しも良し。

ジャーン! Welcome To The Salad!  生ハムをグルグル巻にしたハムローズに、拳銃型ピックをグサッと刺したら出来上がり。これさえあれば、どんな遅刻やドタキャンも怖くない! ちなみに拳銃型ピックは、Amazonでも購入可能! 

◆スープ×LED ZEPPELIN

スープだからといって、やれコンソメだ、ポタージュだというのは、メタルのやることではない。70年代を代表するハードロックバンドとともに、ここは一つ思いきって鍋そのものをスープと捉える試みを提案したい。

重厚感あふれる、スープ代わりの鍋。題して「Whole Lotta 鍋 ~胸肉いっぱいの鍋を」。胸肉をふんだんに使ったボリューム満点の豆乳カレー鍋を、愛の代わりに。

◆パン×VAN HALEN

ここで、口直し的にパンを楽しみたいという方には朗報だ。本書ではヴァン・ヘイレンをモチーフにした「パン・ヘイレン」というレシピも掲載されている。超絶テク・ライトハンド奏法の持ち主を、コミックバンドのように楽しんでしまおう! 

◆メイン×OZZY OSBOURNE

メイン料理は、メタルの帝王の異名を持つオジー・オズボーン御大にお出ましいただきたい。トニー・アイオミ、ランディ・ローズ、ジェイク・E・リー、ザック・ワイルド。あなたのお気に入りのギタリストは誰だろうか。個人的なフェイバリットはやはり、ランディ・ローズ時代の「Crazy train」あたり。

だが料理に関しては、ジェイク・E・リー時代の代表曲「Bark at the moon」をモチーフにした一品を食すのが、メタルの粋。耳からはランディー・ローズ、口からはジェイク・E・リー。この背徳感を楽しめてこそ、真のメタルマニアと言えるだろう。ハンバーグのホイル包み焼きに、目玉焼きが乗っかっているのも洒落ている。

またメインを魚に変えたいという人のためには、「サバ酢・ブラッディ・サバ酢」というメニューが用意されているのも嬉しい。

◆デザート×JUDAS PRIEST

激しいだけがメタルではない。甘いバラードナンバーや泣きのギターソロがあってこそ。ならばデザートに、抜かりがあることも許されないだろう。ここは一つジューダス・プリーストにトリを務めてもらうことにする。

食パンにプリンをのっけて焼くだけで、ゴージャスなプリントーストが出来あがる。ビジュアルは、アルバム「BRITISH STEEL」がモチーフ。

この他にも、スラッシュメタルBIG4(MEGADETHMETALLICAANTHRAX、SLAYER)はもちろんのこと、最近の若武者世代まで網羅されており、レシピを通してメタルの歴史そのものを一望することが出来る。

また、バンドをモチーフにしているから分量もすべて4人分かと思いきや、1人前か2人前が中心という心配り。また火加減も強火一辺倒ではなく、明記がない時は中火であるなど、細かいところにまで目が行き届いているという印象だ。

作る喜び、食べる楽しみ、叫ぶ幸せ、その全てを味わうことが出来る一冊。中でも、モンスターズ・オブ・ロックのラインナップを決めるかのように、食べ合わせを考案出来ることの醍醐味は何事にも代えがたいものがある。

読むがいい・・・ 声を上げて読むがいい・・・
作るがいい・・・ そして血の滴る肉を頬張りながら、好きなだけ喰うがいい・・・

内藤 順



NEWS ポストセブン 8月10日(日)16時6分配信

 音楽と料理はそのそのものを愉しむだけでなく、人と人をつなげる効果があるのではないか。作家で人材コンサルタント常見陽平氏が一冊の奇妙な料理本から考える。

 * * *
 凄い本と出会ってしまいました。「料理勉強家」ヤスナリオさんによる『メタルめし!』(DU BOOKS)という本です。その名の通り、ヘビィメタルにインスパイアされた料理レシピ本です。メタルにちなんだ料理と、そのレシピ、写真が103ページにわたり、紹介されています。この本を読んで、私は料理と音楽がコミュニケーションツールとなっているなと確信しました。

 この本で紹介されている、いくつかの料理をご紹介しましょう。METALLICAの3RDアルバムといえば、『MASTER OF PUPPETS』です。1986年にリリースされたこのアルバムですが、十字架が並ぶ墓場を描いたジャケットはあまりに有名ですし、同名の曲はMETALLICAの代表曲となっており、未だにライブで演奏されています。

 この曲にインスパイアされた料理が、「マスター・オブ・ナゲッツ」です。「ナゲットというよりは、フライドチキンでは?」と思うほどの、大きなチキンナゲットがドーンと構え、その周りに十字架の形をしたポテトが並びます。この十字架の形をしたポテト、食感も最高です。例の中国食材の大幅期限切れの腐敗鶏肉問題が、コンビニチキンナゲットで起きましたが、自分で作るならその辺も安心ですよね。

 メタル好きでなくても、簡単にできる夜食として美味しいのが、「2ミニッツ・トゥ・ミッドナイト・ヌードル」。元ネタは英国が誇るヘビィメタルバンド、アイアン・メイデンの代表曲”2 MINUTES TO MIDNIGHT”です。邦題が「悪夢の最終兵器・絶滅2分前」なのが、笑えるような、怖いようなという感じですが。この料理、ポイントは深夜に2分で完成してしまうことです。

 鍋に豆乳、水、白すりごま、ちんげん菜を入れて、沸騰したらそうめんを加えて、麺をほぐしながら2分茹で、食べるラー油をかけて出来上がり。簡単ですね。作り方も、食べるラー油も、実にロック。この料理の邦題は「深夜の最終兵器・満腹2分前」という感じでしょうか。

 他にも、パンヘイレン(ヴァン・ヘイレンにかけたもの)、モツ煮ーカレー(モトリー・クルーにかけたもの)など、面白いレシピが続きます。料理好き、メタル好きにはたまりません。

 書籍とレシピの紹介はこれくらいにして、ちょっと別の切り口で考察してみたいと思います。メタルファンとして大変面白く、美味しい本だったのですが、料理と音楽がコミュニケーションツールになっているなとも感じました。

 料理に関していえば、クックパッドに代表されるレシピサイトがそうですし、自分が作った料理、食べた料理の写真をFacebookに載せる際などもそうですが、自分のレシピ、料理を紹介すること、それに対するレスを楽しむツールになっていると感じます。その際、美味しいかどうか、栄養があるかどうかなどが問題になるわけではありません。ネットにあげて面白がられるかどうかという点が大事です。

 ジロリアンと呼ばれるラーメン二郎マニアが、野菜増し増しなどで山盛りになった麺や、いかに自分がラーメン二郎系で食べているかをアピールするなども、まさにコミュニケーションとしての料理ですね。子供のために作ってあげたキャラ弁をアップするのも同様ですね。このメタルめしは、大人のキャラ弁と言えるでしょう。

 音楽に関しても、もちろん新人も出てきていますし、ベテランアーチストも新譜を発表しているのですが、むしろ過去の曲がコミュニケーションツールとして生き続けているのではないかと思うわけです。このように、曲名とその世界観にひっかけて料理が出てきて、それを見て少なくともメタルファンは興奮するというのは、曲や曲名がコミュニケーションツールとなっているということなのでしょう。

 音楽業界では、来年はCDやネット配信など音源の売上と、ライブの売上が逆転するのではと言われています。音源よりもライブということは、ファンがリアルな体験を求めているということですし、以前からある曲をコミュニケーションツールとして楽しみたいということでしょう。

 このように『メタルめし!』の登場は、料理と音楽の変化を象徴するものの一つと言えるのではないでしょうか。さて、この本に載っていた「俗悪テキサスバーガー」でも作りますかね。