ジャンボタニシ


THE PAGE 3/6(月) 17:10配信

 沖縄に行かれたことのある読者なら、とても大きなカタツムリが島に生息しているのを目撃したことがあるのではないでしょうか? 本土で身近に見かけるカタツムリと違って、紡錘型の巻貝を背負っており、殻の大きさは最大20センチメートル、体長も伸びれば20センチメートルを超える大物です。


 このカタツムリの名前はアフリカマイマイ。名前から分かる通り、外来生物です。本来の生息地は東アフリカと考えられ、世界各地に食用目的で持ち込まれました。現在では、東南アジアや、太平洋、大西洋、インド洋の熱帯・亜熱帯島嶼域に広く分布しています。
(解説:国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)


食用として導入された巨大カタツムリが有害動物に

 日本では、沖縄島・奄美大島宮古島石垣島など南西諸島および小笠原諸島に定着しており、これらの個体群も戦前に食用目的で導入されたものが繁殖したとされています。実際に沖縄では敗戦後の復興期において、このカタツムリは県民にとって貴重なタンパク源であったと記録されています。しかし、その後の経済復興に伴い、この巨大カタツムリも食べられることはほとんどなくなり、野外で爆発的に増えてしまいました。

 その後、様々農作物を食い荒らす農業害虫として問題となるようになり、今は、食用から一転して、農林水産省の植物防疫法で「有害動物指定」を受けています。そのため、南西諸島や小笠原からこのカタツムリを持ち出すことは禁止されています。

 小笠原では、このカタツムリの貝殻が島内のあちこちに散在し、島の固有種であるオカヤドカリが、その巨大な殻を「宿」として利用するようになったため、身体の大きさが巨大化するという現象が起こりました。いまでも、小笠原に行くと巨大な「アフリカマイマイ・ヤドカリ」が見られます。


かつては食用、貴重なタンパク源だった 巨大カタツムリと巨大タニシのいま

ニューギニアヤリガタリクウズムシ(国立環境研・侵入生物データベース)
アフリカマイマイ駆除に成功した小笠原・父島の新たな問題

 ところで小笠原の父島では、近年、アフリカマイマイはかつてほど頻繁に見られなくなりました。アフリカマイマイの数が減った主な原因はニューギニアヤリガタリクウズムシという天敵の登場と考えられています。このウズムシ外来種で、もともとはニューギニアに生息する肉食のプラナリアです。カタツムリを好んで捕食する性質から、太平洋諸島にアフリカマイマイの天敵として導入されてきました。

 小笠原・父島にはおそらく農作物や植物の移送に伴って、上陸したものと考えられており、本種が島内に分布を広げる中、アフリカマイマイもその餌食になったのでしょう。外来カタツムリが減るなら有り難い話に聞こえますが、この肉食プラナリアアフリカマイマイだけでなく、島に生息する固有のカタツムリ類も捕食し続け、多くの種を絶滅に追いやっています。現在、ニューギニアヤリガタリクウズムシ環境省外来生物法」の特定外来生物に指定されており、島の外に持ち出すことは禁止されています。

 しかし、もともと非意図的に移送物資に付着して父島に侵入した種であり、今後、ほかの島にも偶発的に侵入する可能性が高いことから、環境省では島間移送の対策に苦慮しています。特に、世界自然遺産に指定されて以降、観光客の人数は急増しており、外来プラナリアの侵入リスクはさらに高まっており、防除手法の開発が緊急の課題とされています。

 ちなみに父島では、アフリカマイマイが減ってしまったために、大きな貝殻が不足しており、すっかり身体が巨大化してしまったオカヤドカリたちの住宅事情が悪化することに。今、父島に行くと、小さな貝殻に身体をギュウ詰めにした、ちょっと窮屈そうなオカヤドカリや、大きな貝殻を奪い合うヤドカリたちを沢山見ることができます。



 日本にはもう1種、有名な外来軟体動物がいます。それがスクミリンゴガイです。南米原産の淡水性巻貝で、日本では「ジャンボタニシ」の通称で呼ばれています。日本のタニシと比較して身体が大きく、貝殻の大きさは最大80ミリにもなります。水面から伸びる植物の茎や、水辺の壁面などに産みつけられる卵塊の色がド派手なピンク色をしているのが特徴的です。

 その巨大な身体から、本種も食用として中国、東南アジア、台湾等に導入されました。日本には1981年に台湾から導入されました。その後、日本各地で盛んに養殖されましたが、淡水巻貝を食べる文化がそれほど定着していない国内では需要が伸びず、結局、廃業する養殖業者が続出し、飼育個体が次々に野外に廃棄された結果、外来生物として日本国内で分布を拡大しました。

 本種は雑食性で水中に生える植物や、動物の死体等、何でも食べますが、特に水田で繁殖すると、イネの大害虫となります。そのため、本種は1984年に農林水産省「植物防疫法」という農林害虫を規制する法律で「有害動物」に指定され、農業害虫として駆除対象となり、その後、2012年には「検疫有害動植物」に指定されて、輸入が禁止となりました。

 害虫なので、輸入規制は当然な措置と思われますが、規制が決まった当時、その決定に対して落胆の声を上げる人も少なからずいました。実は、スクミリンゴガイは野外で外来害虫として問題になっている一方、近年、本種の体色変異個体がペットとして人気を集めていたのです。

 黄色の貝殻を持つスクミリンゴガイは「ゴールデンアップルスネール」、紫色の貝殻を持つものは「バイオレットアップルスネール」などの愛称で呼ばれて、飼育個体が愛好家の間で流通しています。これらの個体は東南アジアで養殖され、日本に輸出されていました。それが法律によって禁止になったので愛好家のなかにはガッカリする人が続出しました。

 ところが、この規制は2014年に解除され、今では自由に輸入が出来るようになっています。規制解除の背景には貿易の自由化という国際情勢が深く関わっています。1995年にWTO(世界貿易機構)が設立されて以降、貿易に係る摩擦の撤廃が世界的に唱われるようになり、特に貿易品の検疫に関しても、輸出国に対して不当な非関税障壁とならぬよう、国際ルールが定められています。それがSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)です。

 この協定に準じると、すでに国内に生息分布している生物種を検疫対象にすることは、非関税障壁に該当し、自由貿易の原則に反するとされます。つまり例え外来生物でも、国内に蔓延している状態ならば、その外来生物を検疫対象とすることは原則「国際協定違反」とみなされるのです。

 もちろん、定着しているからといってすべての外来生物が輸入自由となるわけではなく、有害性が高ければ、輸入国は国内法に準じて検疫対象とすることはできます。その際、国内法発動前に、検疫対象とする種をWTOに通報することが加盟各国に義務づけられています。この通報によって貿易相手国に不利益が生じなければ何も問題は無いのですが、農業害虫のように農産物の輸出入に付随する種については、場合によっては貿易相手国どの間に利害が生じることになります。

 そのため、近年、日本の植物防疫法においては、すでに日本国内に蔓延している農業害虫を検疫対象から外す傾向が強まって来ています。そうした流れの中で、スクミリンゴガイについても、一旦は輸入禁止にしたものの、国内における定着分布があまりに広いため、国際貿易ルールに配慮して、再び輸入自由となったと考えられます。

飽食の時代到来とともに、お役御免となった有害外来生物

 アフリカマイマイスクミリンゴガイも、食糧が不足する時代に、効率的に増殖できるタンパク源として期待され、人の手によって導入が繰り返されてきた生物であり、どちらも飽食の時代到来とともに、お役御免の有害外来生物と化しました。

 今でも、これらの貝類を食べようと思えば食べることはできそうですが、もし食べるとすれば、注意しなくてはならないのが寄生虫のリスクです。両種とも、人間に感染し得る「広東住血線虫」という寄生虫保有します。寄生しているアフリカマイマイやスミリンゴガイを触った手で、そのまま口に触れたり、食事をしたりすると、この寄生虫が、人間の口から体内に侵入します。寄生虫は中枢神経に移動して、脳内にまで到達する場合があります。その結果、脳脊髄膜炎が引き起こされ、最悪、死に至ります。また、直接触っていなくても、アフリカマイマイが這った跡のある農作物を食べただけも感染します。

 これまでに南西諸島や小笠原に生息するアフリカマイマイ、および沖縄に生息するスクミリンゴガイからこの寄生虫が検出されています。従って、野外でこれらの外来巻貝類をみかけても安易に素手で触ることは避けるべきです。当然食べるときも十分な加熱が必要とされます。

【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)

個人の意見

 今どきは魚釣りをしていて、水生植物や水路の側壁にショッキングピンクのタマゴを見かけるのは珍しくない。

寄生しているアフリカマイマイやスミリンゴガイを触った手で、そのまま口に触れたり、食事をしたりすると、この寄生虫が、人間の口から体内に侵入します。寄生虫は中枢神経に移動して、脳内にまで到達する場合があります。その結果、脳脊髄膜炎が引き起こされ、最悪、死に至ります。

 野釣りを楽しんでいる釣り人は、釣り場でそのまま水分補給や昼食を摂るケースがよくある。
そして、ジャンボタニシを触ってしまう可能性は低くない。

 自分は、ここ数年、徳用パッケージが売られている男性用(サイズが大きい)の「制汗シート・汗拭きシート」を車載しておき、手拭きに使用している。本来の使い方も当然だが、手が洗えない状況に置かれているときは大変に有効で、シートの大きさや丈夫さからゴシゴシと使えるアイテムである。

 冬季など販促シーズンがオフになると、投げ売り状態のセールが展開され、お買い得品となるから、このときに買い置きするのも一手だろう。


 ところで、この生物2種を一緒に紹介することは、風評被害の危険性を孕んでいる。

 接触っていなくても、アフリカマイマイが這った跡のある農作物を食べただけも感染

 スクミリンゴガイと勘違いされたら、霞ヶ浦利根川水系(両総用水によって千葉県は全域にわたる)における農作物は誤解を受けてしまう。

 文章中では「ジャンボタニシ」ではなく「アフリカマイマイ」と断定していることを覚えておいて欲しい。