「カタカナは20文字だけ」「没アイテムで宝箱がカラッポに」 ファミコンハードの限界に挑んだ制作者たち
1/7(日) 12:05配信
ねとらぼ
2018年現在、増加の一途をたどるゲームの容量。もはや1本で30GBを超えるようなソフトも当たり前で、例えば昨年発売されたPCゲーム「シャドウ・オブ・ウォー」に至っては、97.7GBもあります。
これに対して、昔のファミコンソフトの容量は微々たるものでした。全世界で4024万本が売れたという「スーパーマリオブラザーズ」はたった“40KB”。現在の携帯電話で撮影した写真が当然のように数MBあることを考えると、驚きの低容量です。
RPGの「ドラゴンクエスト」ですら、初代の「1」はわずか64KB。「2」が128KB。「3」が256KB、ファミコンでのラスト作であり、5章からなる「4」ですら512KBにすぎなかったのです(※1)。
(※1…当時からのファンなら「ドラクエ3が2メガ、ドラクエ4が4メガ……」という風に覚えていた方も多いと思いますが、実はこれ、バイトでは無くビットの数字です。ビットはバイトの8分の1なので、バイトに換算すると上記の数値になるわけです)
いま考えると「絶望的に少ない容量」「貧弱なグラフィックと音の仕様」で、大冒険活劇を描ききった当時のゲームクリエイターたち。彼らは「その手があったか!」という工夫と、徹底した「データカット」で、限られたハード性能の中に厳選した内容を詰め込みました。
当時の伝説のクリエイターたちが語った“容量節約秘話”を、過去の文献などから見ていきましょう。
●ドラクエ1で使ったカタカナは20文字だけ!
まずキャラに横や後ろを向かせると、その分の容量が使われてしまうので、常に前を向いています。そのため「カニ歩き」と揶揄(やゆ)される独特の歩き方になりました。
さらに使う文字を制限しました。カタカナはたったの「20文字」に抑えたのです。最初に呪文やモンスターへ自由に名前をつけて、使っているカタカナを洗い出し、頻度の高い方から20番目までの文字を選んで、そこに無い文字は別の文字に変更しました。
結局、使えたのは「イ・カ・キ・コ・シ・ス・タ・ト・ヘ・ホ・マ・ミ・ム・メ・ラ・リ・ル・レ・ロ・ン」の20文字。これに「゛」(濁点)と「―」(音引き)の組み合わせを入れ、さらにひらがなと似た「ヘ」や「リ」などをひらがなと共通にすることで、さらに文字数の削減を図ったのです。
●ドラクエ1の文字「ひらがなの間にスペースを空け、読点は使わない」
ひらがなが多くなるので、堀井雄二氏は独特の文章ルールと限られた文字数でセリフを紡いでいきました。そう、この逆境を逆手にとって、あの堀井節が生まれていくのです。
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堀井 漢字を使えないので、ひらがなが続くときはスペースを空ける。(中略)ひらがなだけのスペースを多用した文章に、いちいち読点が入ると、とてもうるさいだろうと考え、読点を使わないことにしました。(中略)同様の理由で、セリフの終わりを、【「】(カギカッコ)で閉じないことにしました。
堀井 漢字を使えないので、ひらがなが続くときはスペースを空ける。(中略)ひらがなだけのスペースを多用した文章に、いちいち読点が入ると、とてもうるさいだろうと考え、読点を使わないことにしました。(中略)同様の理由で、セリフの終わりを、【「】(カギカッコ)で閉じないことにしました。
●ダンジョンの下へ行くごとに、同じ曲のテンポと音程を下げて恐怖感を演出
さらに音楽家のすぎやまこういち氏は、ダンジョンでは同じ曲でも臨場感を出すため、下の階へ降りるごとに、音程が下がり、テンポもゆっくりにすることで、かえって「洞窟としての恐怖感」を増すことに成功しました。
●ドラクエ2は「紙芝居」でシナリオが展開されるはずだった!
「ドラゴンクエスト2」は「1」と比べ容量が2倍になったものの、いまだ128KB。それでいて、フィールドがグンと広くなり、1人→3人パーティへと進化していて、これまた壮絶な容量節約が徹底されました。
CGデザイナーの安野隆志氏が証言しています。
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一番大きかったのは、ストーリーや場所を説明する、一枚絵が全然入らなかったこと。ゲームの取扱い説明書の6ページに、ローレシアの城の中の絵があるでしょう。王様とか王子様とかいるやつ。あれが実は、画面写真なんです。あんな絵が10枚くらい入る予定だったんですけどね。
一番大きかったのは、ストーリーや場所を説明する、一枚絵が全然入らなかったこと。ゲームの取扱い説明書の6ページに、ローレシアの城の中の絵があるでしょう。王様とか王子様とかいるやつ。あれが実は、画面写真なんです。あんな絵が10枚くらい入る予定だったんですけどね。
もともとは、紙芝居的にシナリオを1枚絵で説明していく形になるはずだったそうです。さらにドラクエ3で初登場した「あぶないみずぎ」も本当は2から採用され、ムーンブルクの王女に着せられたはずでしたが、あえなくカットされてしまいました。
●ドラクエ2に「カラッポ」の宝箱がある理由
さらに、堀井雄二氏は「耳せん」や「死のオルゴール」などの気になるアイテムがカットされたり、「カラッポの宝箱にはアイテムが入っていた」ことを証言。さらには、「逃げる階段のダンジョン」などの未収録要素も用意されていたといいます。
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メモリの制約から、なくなってしまったアイテムも少なくないのだ。ところどころにカラッポの宝箱があったりするのは、その名残りである。
想像力豊かなキミはカラッポの宝箱を前に「ここはなにが入っていたんだろう」などあれこれ考えてみるのも楽しいかもしれない。
メモリの制約から、なくなってしまったアイテムも少なくないのだ。ところどころにカラッポの宝箱があったりするのは、その名残りである。
想像力豊かなキミはカラッポの宝箱を前に「ここはなにが入っていたんだろう」などあれこれ考えてみるのも楽しいかもしれない。
●ドラクエ3の超シンプルなオープニングには、アニメシーンがあるはずだった!
ドラクエ3といえば、無音で真っ黒な、あまりにシンプルなオープニング。しかしそこには、本来アニメーションシーンが入れられるはずだったのです。
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メモリーにくわれて、イベントがトブよりイイんじゃないかなと思って、タイトル画面とタイトル曲をけずったんです。もし、けずらなかったら、ドラクエ3のロゴマークにアニメーション処理した画面がでてくるハズだったんです。
でもこれを取ったおかげで、町3つ分とイベントを組み込むことが出来たんだ。
今回も原稿は4メガ分あったのに、使えたのは2メガ分。
メモリーにくわれて、イベントがトブよりイイんじゃないかなと思って、タイトル画面とタイトル曲をけずったんです。もし、けずらなかったら、ドラクエ3のロゴマークにアニメーション処理した画面がでてくるハズだったんです。
でもこれを取ったおかげで、町3つ分とイベントを組み込むことが出来たんだ。
今回も原稿は4メガ分あったのに、使えたのは2メガ分。
海外版には収録されている、その幻のオープニングがこちら。ドラクエというよりも、別のアクションゲームのようなシュールな時間が流れる映像ですが、ついつい見入ってしまいます。
●すぎやまこういち、秘技で「1音」を「3音」に見せる
同時発音数の少ないファミコンでは、音の厚みがなくなりがち。そこで例えばサブメロディパートを使って、32分音符単位で「ドミソドミソ……」と素早く音階を変えて鳴らすと、ふしぎなことに、1音でドとミとソの和音感が生まれたのです。
この手法は通常戦闘曲「戦闘のテーマ」と、洞窟の曲「ダンジョン」で用いられ、音数の少なさを感じさせない、重厚なハーモニーが実現しました。
そんな軽やかなテクニックで音数の問題を乗り越えたすぎやま氏ですが、お蔵入りになった曲が多くありました。
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あれでも何曲かカットになってるんだから、できた曲が。たしか、3曲ばかりオクラ入りしてますよ。(中略)今だから言うけどね、スイスの楽しいヨーデルの曲があったの。でもスイスの村ごと音楽もなくなっちゃった(以下略)
あれでも何曲かカットになってるんだから、できた曲が。たしか、3曲ばかりオクラ入りしてますよ。(中略)今だから言うけどね、スイスの楽しいヨーデルの曲があったの。でもスイスの村ごと音楽もなくなっちゃった(以下略)
この他、“ボスキャラなのに通常戦闘曲”になっている「バラモス」には、実は彼専用に作っていた曲がありましたが、こちらも容量の問題でお蔵入り。さらに、主人公の父親・オルテガの戦闘シーンも通常戦闘曲になってしまいましたが、すぎやま氏はここだけは「レクイエムを流すべきだった」と悔やんでいるそうです。
●不遇のコマンド、「おいのりをする」
●「反転」を多用してメモリを稼いだ、スーパーマリオブラザーズ
例えばクリボー。彼は2足歩行で自然に歩いているように見えますが……実はこれ、単なる1つの画像。アニメーションをさせるには最低でも2つは必要なのに……なんと「左右を交互に反転させる」ことで、歩いているように見せているのです。歩きを自然に見せるため、クリボーの体は少し斜めになっているとか。(参考:『ファミコンの驚くべき発想力 ―限界を突破する技術に学べ』/松浦健一郎・司ゆき/技術評論社)
なんでもクリボーは最後に生まれた敵キャラだったため、使えるパーツがほとんど無く、苦肉の策としてこのようなチャレンジが行われました。
さらにキノコやフラワー、スターなどは容量を節約するために片方の半分しか描かず、それを反転させて表示していて、そのために“シンメトリー”になっているそうです。
またノコノコに羽だけ生やして、新しいキャラ「パタパタ」を作ったり、背景の雲と草は実は同じ形なのに、色だけを変えて別モノに見せたり、エンディング曲もBメロをカットしてAメロの繰り返しで構成したり……と、その節制ぶりは聞くも涙、語るも涙としか言いようがありません。
●ロックマンと、そのボスの下半身は同じ!
これ以前のゲームは、「なんとなく身体の中心部分」から弾を飛ばすことが多かったのですが、そんな中で「手を伸ばして弾を打つ」ことにこだわったロックマン。
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使いまわしていくんですよ。ロックマンの一部分を敵キャラクターにも使ったり、とにかく計算してやるんです。有名なところだと、カットマン(ボスキャラ)の下半身とロックマンの下半身は色が違うだけで、同じなんです。
使いまわしていくんですよ。ロックマンの一部分を敵キャラクターにも使ったり、とにかく計算してやるんです。有名なところだと、カットマン(ボスキャラ)の下半身とロックマンの下半身は色が違うだけで、同じなんです。
そうすると、走る時の下半身の動きは使いまわせるから、その分、カットマンの動きは増やすことができる。
・2つのトラックを同時に鳴らす際に一方の音程だけをほんの少し上げてコーラスのような効果を出し、音色のバリエーションを出す
・最初に休符を入れ、音量を下げて、メロディー用のトラックで鳴らした旋律を後追いで鳴らすことでエコー的な効果を演出
・最初に休符を入れ、音量を下げて、メロディー用のトラックで鳴らした旋律を後追いで鳴らすことでエコー的な効果を演出
●FFの植松伸夫、「あと20バイトくれ!」と他部署に聞いて回る
「あと20バイト足りないんだ。どこか詰められるんじゃないの。おたくのところ?」っていろんなところに行って、メモリを獲得していましたね。
――それは植松さんが直接、交渉に行ってたんですか。
植松 そうです。「20音はみだしてるんで、20バイトもらえないか」とか、そういうシビアな状況でしたよ。
――でも、「20じゃ足りないから18にしてくれ」とか返されることもあったんじゃないですか。
植松 いや、でもね、何かあったときのためにプログラムとかはたいてい余裕を持って作ってるから、みんな隠し持ってるんですよ。曲の場合はループしてループして、それでも乗らないという時がありますからね。
●限界突破のため、奥の手を使う者たち
「FF3」に登場した通常歩行の8倍のスピードで移動する飛空艇「ノーチラス」は、当時スクウェアに所属した天才プログラマー、ナーシャ・ジベリ氏の手により、ファミコンのバグに近い仕様を利用したもので実現したそうです。
ただし彼の組むプログラムは非常に独特かつ高度で、FF3が人気にもかかわらず長らくリメイクされなかったのは、誰も当時そのままに再現できないから、などというウワサまで囁かれました。
●容量が足りないため、やむなく「激ムズ」になっていた
とにかく難しいゲームの多かったファミコン黎明期のゲーム。実は難しくしなければならないわけがあり、容量が少なく、多くのステージを用意できなかったので、難しくしなければすぐにクリアされてしまうため、やむなく高難易度になっていたとか。
ビジュアルに凝れば音がダメになり、その逆もしかり。あっちを立てればこっちが立たず、という状況で苦闘していたゲーム制作者。「容量」と「締切り」と「やりたいこと」が交錯する中、最善のアイデアとゲームバランスで、幾多の名作が生まれました。
あきらめる前に、私たちもほんの少しの一工夫、頭をふりしぼることで乗り越えられる局面があるのでは。珠玉のエピソードたちが、そのヒントを教えてくれる気がします。
そして同時に、自由に容量が使えるようになった今の技術と、それを生かしている今のゲームのすばらしさも思わずにはいられません。昔とは違う大人数のチームで莫大な予算と容量で作る難しさを乗り越え、ゲームが制作されています。
昔のゲームに尊敬を、今のゲームにも拍手を。
個人の意見