ハンドメイド自転車 量産車にない造形に感動


2/8(木) 7:00配信



 東京都千代田区科学技術館で「2018 ハンドメイドバイシクル展」が開催された。このイベントは、主に日本国内のビルダー(ハンドメイドで自転車を製作する職人または工房の総称)たちが自転車やパーツを展示し、その技術力をアピールするというもの。展示されている自転車の多くはオーナーの要望やニーズをもとにオーダーメイドされた自転車だ。毎年秋に開催される「サイクルモード」のように規模の大きなイベントではないが、一般のサイクルショップではあまり見ることのできないハンドメイドバイシクルをビルダーの話を聞きながら観賞できる貴重な機会とあって、毎年多くのサイクリストが訪れる。


趣味としての自転車がすっかり定着し、最近ではコアな自転車好きの間で少量生産のハンドメイドバイシクルを見直す動きが盛んになっている。なぜ「見直す」なのかというと、スチール製(クロモリ製)フレームの自転車が主流だった1990年代までは、高級モデルといえば熟練の職人たちによるハンドメイドの自転車を指していたからだ。現在の高級モデルはカーボンファイバーを用いた自転車で、軽量で強く、設計の自由度も高く、パフォーマンスという点では現時点で最高の素材。だが、金型を用いて生産するという特性上、大規模な製造設備でまとまった数を作らなければ販売にこぎつけない。そうしたマスプロ(大量生産)化された現代の自転車へのアンチテーゼとして、職人によるハンドメイドバイシクルを支持する向きもあるというわけである。

 近年は新時代を担う若手ビルダーも増えており、今年は過去最大となる50社が出展した。数ある出展車両のなかからピックアップして紹介しよう。
古典的なツーリング用自転車をレトロフューチャー

 数ある日本のビルダーのなかで、海外からも注目される存在が東京都町田市に工房を構える、ケルビム(今野製作所)である。今野真一社長は、創業者そして父である仁氏の後を継いで工房を切り盛りする二代目だ。その高い技術力は競輪界を代表する選手である神山雄一郎選手がケルビムの自転車を使用していることからも折り紙付きだが、近年はあっと驚くような独創的なショーモデルを発表して話題を集めている。

 今年のハンドメイドバイシクル展に出展されていたのは「レーサー・スポルティーフ」と名付けられたモデル。古典的なツーリング用の自転車であるスポルティーフロードバイクと同じ700cホイールを採用したツーリング車)に、ディスクブレーキやフレーム一体式のシートポスト(サドルを支持する棒の部分)を採用するなど、ケルビム流にアレンジしたものだ。

 今野氏はレトロフューチャー、つまり「昔の人が考えた未来の姿カタチ」をイメージして設計を行ったという。レトロフューチャーデザインといえば強い流線形が特徴の一つだが、自転車は「面」が少ないためそれを表現するのには工夫がいる。このバイクはまるでフレームとつながっているような泥よけのデザインでそれを表現。タイヤとのクリアランスも極限まで詰めることで一体感を強調している。1950年代の米国車、あるいは戦前のフランス車を思わせるディテールだ。


ヘラブナサイクルズのさりげなく自慢できる実用自転車
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 東京都港区にあるヘラブナサイクルズは、新進気鋭の若手ビルダー。ガチガチのレーシングモデルではなく、街乗りのための実用的なスポーツサイクル、つまりコミューターバイクを得意としている。

 出展された「ジ・アーバン・グラインダー」(上の写真の上のモデル)と「ジ・アーバン・エランド」(同写真の下のモデル)は一見フロントキャリアを装備した実用自転車のようだが、細かなパーツにメッキをかけたり、ボトルケージ(ドリンクボトルを差し込むために自転車のフレームに取り付ける部品のこと)台座のボルトを削り出しにしたりと、隅々にまでこだわって仕上げられている。カフェに乗り付けて、さりげなく自慢できるというのがコンセプトで、こうしたスタイリッシュで手の込んだコミューターバイクは今、コアなサイクリストの間でちょっとしたトレンドとなっている。

●ステムと一直線にするためトップチューブの位置を高くした自転車

 一見しただけで普通でないこの自転車は、フレームビルダーを養成する専門学校、東京サイクルデザイン専門学校(東京都渋谷区)の生徒が手がけたもの。

 最大の特徴はフレームのトップチューブ(上辺)とステム(ハンドルバーと車体を繋ぐ部品のこと)が一直線になるようにデザインされていること。ハンドルの位置を下げるのではなく、大胆にもトップチューブの位置を高くしてしまう発想が面白い。機能面よりルックスのインパクトを狙った造形だが、これもまたハンドメイドバイシクルの魅力である。製作者に最も苦労した点を聞いたところトップチューブの「く」の字になった部分の溶接とのこと。完成車の重量は8.7kgで、完成までに約4カ月を要したそうだ。
耐久性を保ちつつ、ロードバイクにも匹敵する軽さを実現

 トラディショナルなツーリング用の自転車、ランドナーは1970年代に大きなブームがあったため年配のサイクリストにはいまも根強い人気がある。グランボア(京都市右京区)が出展したランドナーは、フランスで開催されたビルダーのコンクール「Concours de Machines」のために作られたもの。

 古典的なランドナーの様式を守りつつ大幅な軽量化が行われており、バッグや工具も含めた総重量は9.57kgと現代のロードバイクにも匹敵する軽さだ。もちろんただ軽いだけではなく、実際に長距離走行をこなすための耐久性もしっかり確保されている。美しく肉抜きされたリアディレーラー(後ろ側の変速機)やフロントチェーンリング、ブレーキレバーなど各部の仕上げは圧巻だ。

●「山岳サイクリング」に特化し、登山道を担いで登れる仕様に

 自分のスタイルにフィットした自転車を作ってもらえるというのがハンドメイドバイシクルの魅力。柳サイクル(東京都西東京市)が手がけたこの車両はまさに乗り手のスタイルが大いに反映された1台だ。

 一見するとドロップハンドルを装着したマウンテンバイクのようにも見えるが、これは「山岳サイクリング」という遊びに特化して製作されたもの。山岳サイクリングというのは、簡単にいえば未舗装の山道もルートに組み込んだアドベンチャー要素の強いツーリングのこと。ときには自転車を担いで登山道を登ることもあるため、前後の車輪は700cから24インチまで多様なサイズが装着可能になっている。狭い山道を担いで登る際には径の小さな車輪のほうが邪魔にならないからだ。またフレームのトップチューブも担ぎやすいように途中で曲げ加工がされている

量産メーカーが自社工房で手がけるハンドメイド自転車

 パナソニックは量産メーカーでありながら「パナソニック・オーダー・システム(POS)」という、自社工房でハンドメイドバイシクルも手がける貴重な存在だ。

 出展されていたのはクロモリフレーム採用のレーシングモデル「ORCC11」に2月から受注が始まるミラーカラーを施したもの。メッキの上から色付きのクリアを塗装したもので、鏡のような光沢感が特徴だ。写真のグラフィックでプラス6万円というかなり高価なオプションである。

●航空機用ジェットエンジンの軸受なども手がけるメーカーが作った超高級ハブ

 ハンドメイドバイシクル展にはパーツも多数出展されている。

 写真は金属の精密な切削加工を得意とし、航空機用ジェットエンジンの軸受なども製造している近藤製作所(愛知県蟹江町)の「GOKISO スーパークライマーハブ」。ハブとは車輪の軸受けにあたる部分のことだが、なかでもGOKISOは驚異的な回転性能を持つことからマニア垂涎の一品となっている。強度の高いチタン合金から精密に削り出されたボディーは、弾性変形することで路面からの衝撃を吸収するサスペンション構造を採り入れている。予定販売価格は驚きの60万円だ。

(文・写真/佐藤 旅宇)


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