欧米で拡大する極右&宗教右派によるヘヴィーメタルバンドへの弾圧


5/7(月) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online


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 昨年の総選挙で94議席を獲得したドイツの「ドイツのための選択肢」や、ルペン氏率いるフランスの「国民戦線」(大統領選では完敗したものの過去最高の得票率を記録)、ポーランドの与党「法と正義」など、近年ヨーロッパでは極右政党や民族主義的な右派ポピュリズム政党が勢力を拡大している。テロへの警戒心や移民の取り締まり強化などが理由に挙げられているが、そんな極右勢力が台頭する欧州で宗教右派による表現弾圧とも言える事態が起きていることをご存知だろうか?

◆ライブ中止の裏に保守政党の陰

 こう聞くとイスラム系移民との対立をイメージしてしまいがちだが、今回取り上げるのは、キリスト教系保守団体とヘヴィーメタルバンドの対立だ。まず今年1月には全米ビルボードチャートにもランクインするなど、世界的な人気を誇るポーランドのバンドBEHEMOTHのメンバーが訴訟をおこされた。

 『REVOLVER』誌によれば、理由はポーランドの国章を模したグッズを販売したことだという。4月16日に訴えは棄却されたものの、当初は実刑もありうるということで、音楽ファンから注目されたニュースだ。『東欧ブラックメタルガイドブック:ポーランドチェコ・スロヴァキア・ハンガリーの暗黒音楽』(パブリブ)の著者である岡田早由氏は、次のように語る。

「BEHEMOTHは’16年にポーランド国内でツアーを行ったのですが、その際にポーランドの国章を思わせる鷲に逆さ十字を組み合わせたデザインを、ツアーのフライヤーやマーチャンダイズに使ってしまったんです。しかも、そのツアー名は『不誠実共和国』(ポーランドは共和国)で、’16年の時点でも、このツアーを中止にさせようとポーランドの宗教団体を中心に署名活動が行われていたほどです。結局、ツアーは無事に行われ、一件落着したかと思っていましたが、今年に入ってついにポーランド国家から訴えられてしまったんです」

 同バンドを巡っては過去にもトラブルが起きており、そういった点もポーランド当局を動かす原因になってしまったのかもしれない。

「過去にもライブパフォーマンスの一環として、ステージで聖書を破り、裁判沙汰になっています。訴えた側のカトリック団体が勝訴したら、フロントマンのネルガルは2年の禁固刑が課されるところでしたが、幸い敗訴したため刑務所行きは免れたようです。また、ネルガルはポーランドの人気TV番組にレギュラー出演していたのですが、これをよく思わない団体が声を上げたことにより、番組を降板させられるという事態も起きています」

 いまのところ司法が機能しており、ギリギリ歯止めがかかっている状態だが、ポーランド国内ではこういったアーティストへの圧力が増え続けている。5月2日にはスウェーデンブラックメタルバンド、MARDUKが公演を行うはずだったが、会場内に侵入者が。建物に水が通らなくなってしまったため、ライブは中止になってしまった。『Wyborcza』誌によれば、数週間前には「法と正義」の関係者がコンサートの中止を求める内容の声明を会場付近のメディアなどに送っていたという。コンサートの運営側は「政治的な圧力」があったとしている。

MARDUKに関しては、以前も会場の前で宗教団体がたむろしてライブを中止にさせようと訴えている姿を見かけたことがあります。また、その他の例では、‘04年には、ノルウェーブラックメタルバンドGORGOROTHがステージに全裸の男女を磔にして登場させたり、羊の頭を使用したことによって、宗教的冒涜とされてポーランドで活動することができなくなってしまいました」(岡田氏)

 そもそもポーランドは人口の9割以上がカトリックヘヴィーメタルにあまりいい印象を持っていないという人も多いだろう。しかし、当局が訴訟を起こしたり、ライブの中止を求め始めるようになったのは右派ポピュリズム政党の「法と正義」が支持を広めてからだ。近年、日本でも表現規制についての議論は活発になっているが、近い将来、遠い国で起きた知らないバンドの話ではすまなくなるかもしれない。これまで見てきたとおり、政権の意志にそぐわないアーティストが規制されるという事態は現実に起きているのだ。

◆逆に反リベラル的なバンドも

 また、ポーランドだけではなく、リベラルなイメージの強いフランスでもアーティストへの圧力は発生している。大型フェスティバルの「ヘルフェスト」に対しては、カトリック団体が「サタニズムや反キリスト教的な思想を広めている」と抗議したことが『IQ』などで報じられている。

 ここまで保守政党キリスト教団体が圧力をかけようとしているブラックメタルとはいったいどんな音楽なのか? 前出の岡田氏が解説する。

ブラックメタルとは、90年代に北欧ノルウェーで誕生したメタル音楽のサブジャンルです。正統派のブラックメタルは、コープスペイントと呼ばれる白塗りメイクを施し、鋲のついた黒づくめのファッションで、反キリスト、悪魔崇拝などに関する歌詞を叫ぶように歌っています。最近では多種多様なジャンルを融合させたバンドも増え、ブラックメタルの代名詞とも言えるコープスペイントを施さなかったり、悪魔崇拝ではなく、自然崇拝や社会問題について歌っているバンドもいます」

 宗教に限らず、さまざまな分野での思想を全面に打ち出したバンドが多いので、結果、目をつけられやすいという面もあるのかもしれない。

 また、表現の自由も、それが許されるのは他者の自由を侵害しない場合だ。そのため、他者の権利を侵害しかねない差別扇動についてプロテストをする行為と、前述したような宗教右派による弾圧行為と同列にはできないが、反対に極右的な人種差別思想や排外主義を掲げて、左翼団体から抗議を受けるバンドも存在する。

「バンドやアーティストが音楽を通して自分の思想や主義を主張するのは、まったくかまわないと思います。もちろん、『白人万歳!』などという差別的な歌詞を見ると、アジア人のわたしは正直かなりうんざりしますし、いい気分はしませんが。ただ、実際にこういうバンドのメンバーに連絡を取ると、意外にも親切でフレンドリーだったりすることもあるんです。私が一番厄介だと思うのが、そういったバンドのファンです」

 岡田氏によれば、こういったバンドのコンサートには反ファシズム系団体などが抗議に来ることも増えているという。

「最近はANTIFA(反ファシスト)団体が、世界中のブラックメタルバンドに目をつけていて、少しでもネオナチ思想やそれに値する主義を持つバンドを見つけると、片っ端から潰そうとしてくるようになりました。だから、バンドもかなり敏感になって、あまり問題を起こさないように気をつけているんだと思います。しかし、ファンはそんなこと気にしないので、露骨に差別してくる人も時々います。わたしも怖いので、個人的にはなるべく接触しないようにしています(苦笑)」

 演奏していい音楽/悪い音楽を他人が裁く権利があるのかは確かに大きな問題で、表現の自由の問題として慎重に考えていく必要はある。

 ただ、権威や権力を持ったマジョリティからの一方的な弾圧のような例が増えていけば、ヘヴィーメタルというジャンルや音楽だけでなく、本や映画など他の分野にも飛び火する可能性は大いにある。また、規制される内容も線引きがどんどん曖昧になっていくだろうし、政治利用などにも繋がりかねない。

 一部の音楽ファンが注目するニッチなニュースかもしれないが、法や思想、政治や宗教とアートの関係を考えるうえでは、見逃してはならないだろう。

<取材・文・翻訳/林泰人>

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個人の意見

キリスト教系保守団体とヘヴィーメタルバンドの対立

 そういうときは、Stryperです。