「買う気のない客」の気が変わる 営業の「雑談力」とは?
1/15(火) 10:20配信
日経BizGate
私は以前、ケーブルテレビ事業を手掛けるジュピターテレコム(J:COM)という会社に在籍していたことがあります。
(※連載の2話目です。前後の記事は画面下の【関連記事】から)
当時のケーブルテレビの営業というのは、一軒一軒訪問して、ケーブルテレビの加入契約を取ってくる仕事です。一般宅に飛び込みで行くので、営業の中でもハードな部類に入るのではないかと思います。
私は多くの営業担当者に同行し、その仕事ぶりを見てきたのですが、なかなか契約の取れない営業担当者は、やり方がみなほぼ同じでした。
まず、顧客宅を訪問すると、パンフレットを渡して、「ケーブルテレビ、いかがですか?」と言います。そう聞かれれば、答えは「イエス」か「ノー」かしかありません。ですから、ほとんどその場で「ノー」と言われてしまうのです。
世の中では、国民みんなが使っているという化け物のようなごくごく一部の商品を除いて、ヒット商品と言われるものでも99パーセントの顧客には必要とされていないと考えておいたほうがいいでしょう。
たとえば、書籍でミリオンセラー(100万部)というと、ものすごいヒット作のように思われますが、本を読むことができる日本人をざっくり1億人と仮定すれば、そのうちの1パーセントの読者しかお金を出しては買っていないわけです。
その1パーセントの顧客にしか必要とされていないことを自覚し、その潜在顧客層にきちんとターゲットを定めてアプローチできるのがデキる営業です。
さらに世の中には、数え切れないほどの「商品」があふれていますが、顧客にとって、世にある商品の99パーセントはいらないものと考えておけばいいでしょう。欲しいものは1パーセントくらいはありますが、顧客は自分がそれを欲しいと思っていることに、気づいていなかったりします。
その顧客の心の中の1パーセントの潜在的需要を顕在化できるのが、デキる営業です。
■顧客は、営業の話を聞くより、自分の話をしたい
当時、J:COMでトップセールスだった営業マンは、顧客宅を訪問しても、ケーブルテレビの話をすぐには出しませんでした。
まずは家の中の様子をさりげなく見回して、釣りの雑誌や釣り竿が並んでいるのを見つけると、「釣りがお好きなんですね」と趣味の話題を持ち出して、相手の様子を見ます。相手が会話に乗ってきたら、「ケーブルテレビには、24時間釣り番組を放送しているチャンネルがあるんですよ」と初めて商品の話を出すのです。
この顧客は、それまで「自分は釣りの有料チャンネルが見たいのだ」ということには気づいていませんでした。けれども、その情報を教えてもらったら、見たいと思ったはずです。
この営業マンは、顧客の潜在的ニーズに気づき、引き出すことに成功したわけです。
釣りに限らず、その営業マンは雑談の名手で、映画や海外ドラマ、海外サッカーをはじめとしたスポーツの話まで顧客の趣味・嗜好を引き出して、「それなら、こんな番組が観られますよ」と話を切り出して成約につなげていくのです。
この「雑談力」ともいうべき例の話をすると、多くの営業担当者の方は、「自分はそれほど知識が幅広くないから難しい」と考えてしまうのですが、まったく心配は必要ありません。もちろん、釣りにしろ、映画にしろ、サッカーにしろ、会話の糸口となるようなごく基本的な知識は勉強しておく努力が必要ですが、いざ話が始まってしまったら、とにかく相手の話を感心しながら聞けばいいわけです。
皆さんも心あたりがあるでしょうが、人は相手の話を聞くよりも、自分の話をすることを好む生き物です。会話をしていて、不快に感じるのは、こちらが何か話をしても、それに対する反応を示さず、「自分話」に強引に持ち込んでしまう人です。
逆に、話をしていて気分がいい人というのは、こちらの話をしっかり聞いてくれ、興味を示し、さらにこちらに話をさせてくれるように質問などで話題を膨らませてくれます。
私が知る限り、優秀な営業担当者は例外なく、自分が話す代わりに顧客の話をよく聞きます。売れない人ほど、しつこくセールストークをしてしまうのです。顧客に話してもらって、何を求めているのかを引き出すこと。それが、営業担当者にとってもっとも大切なスキル、というより心構えだと思います。
■システムの話をする前に、納期の話から切り出す
顧客がその商品やサービスに何を求めているのか、それを理解しようとしない、汲み取ろうとしない人は、意外と多くいるものです。たとえば、社運をかけて大型の新システムを導入した会社があったとします。上司から、「うちの新しいシステムをアピールしてたくさん注文を取ってこい!」と言われた営業担当者が、顧客に営業に行った場合、よくやってしまうのが、その新システムがいかにすごいのか、スペックをくどくどと説明することです。
「今回、わが社はXX会社と共同開発したYYという画期的な技術を導入しまして、最新のZZシステムが可能になりました」
この営業トーク、売る側の自己満足以外の何ものでもありません。顧客が知りたいのは、その会社に仕事を依頼することによるメリットです。
情報として伝えてほしいのは、納期の短縮であったり、品質の良さだったり、価格の低減だったりするわけです。極端に言えば、その要望さえきちんと叶えてくれるのならば、相手の会社がどんなシステムを使おうと知ったことではないのです。
「お忙しそうですね。うちなら納期を大幅短縮できますよ。今度新しいシステムを入れたので」
まずは先にメリットを伝えて顧客の反応を見る。そして、興味を持ってもらえたら、そこで初めてパンフレットを出すわけです。
IT関係の営業担当者と話をすると、あえて難しいシステムの話をすることによって、顧客を煙に巻くという戦術を使うケースにもしばしば遭遇しますが、それで契約が取れるかというと、なかなか難しいというのが実情です。
ここで少しマーケティング的な説明をすると、商品やサービスには、すべて「機能的価値」と「情緒的価値」の2つの側面があります。機能的価値とはパンフレットに載っている性能やスペックのことであり、情緒的価値とはその商品やサービスを使うことで得られる効用や満足感といったものです。
たとえば、4Kテレビにたとえるならば、フルハイビジョンの4倍もの画素で精緻な画質を再現できる点、これが機能的価値になります。これに対して、「まるで現場でスポーツを観戦しているようだ」「あたかも最新の映画館にいるようだ」などと言い表すと、これは情緒的価値ということになります。
顧客が商品やサービスを選ぶときに、まず関心を寄せるのは情緒的価値です。ですから、新システムを使ったら顧客はどんな情緒的価値を実感できるのか、まずはそこのところをアピールしなければいけないわけです。
■理央周 著 『なぜか売れる 営業の超思考』(日本経済新聞出版社)から
(※連載の2話目です。前後の記事は画面下の【関連記事】から)
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