洋楽のライブに邦楽の前座はいる? いらない? 音楽ファンの答えとは……


2/1(金) 15:30配信

HARBOR BUSINESS Online

「前座」「サポート」「オープニングアクト」「スペシャル・ゲスト」……。いろいろな呼び名があるが、音楽ファンの間で是非がわかれているのが、洋楽アーティストの前に日本人が出演することだ。昨年12月にもザ・ウィークエンドのライブに米津玄師が登場し、ネット上では賛否両論、さまざまな声が溢れた。

◆「組み合わせ次第」の声が大多数

 そこで今回はさまざまなジャンルのファンから、この問題について話を聞いてみることにした。まずは普段は洋楽を聴くことが多いというロックファンの男性から。

「日本人のサポートアクトはいると思います。日本のバンドも世界に出て行きやすくなる。チャンスに繋がるし、交友関係が世界に広がるんじゃないでしょうか。そもそも、本当にダメなアーティストなら起用されないはずです。ただ、どういうアーティストをつけるかには気をつけてほしい。抱き合わせは否定も肯定はしないけど、チケットが売れてないんだなとか、穴埋め感が感じられると冷めますね」(42歳・男性・ロックファン)

 かなり好意的だが、では、どういうアーティストの組み合わせに違和感を感じるのだろうか?

「考え方によるけど、ジャンルがズレていて客層が被りそうにないやつ。フェスとかではいろんなジャンルのアーティストが出ているのがいい方向に作用するけど、基本的にジャンルは被っていてほしいです。日本人のいいバンドを知れれば、CDを買ってみようというキッカケになる。ただ、実際に聴いてみて『こいつらパクリじゃん!』となることもあるかもしれませんが(笑)」

 ちなみに国内外の理想的なアーティストの組み合わせについては、次のような願望があるのだとか。

「観てみたい組み合わせはジャック・ホワイトとTHE 5.6.7.8’sです 。女性ドラムで『セブン・ネーション・アーミー』のセッションが観てみたい!」

 いっぽうで、次のような意見もある。

「ドンピシャで興味のあるジャンルやバンド以外は、国内外に限らずあまり観ませんね。サポートバンドがつくとライブが始まるのも早いことが多いので、いかんせん観に行くのが難しいです。バンド側にとってはお客さんも集まるし、サポートバンドをつけたい気持ちはわかります。もし、誰か日本人のサポートアクトをつけるなら、ジャンルで統一してほしいです」(25歳・女性・メタルファン)

 やはり、サポートアクトがつくにしても、その選び方にこだわってほしいという意見は根強いようだ。また、主催者側から次のようなアシストがほしいという声も。

「サポートにつくのがどういうバンドかの説明がもう少しほしいです。なかなか調べる時間もないですし。選び方も含めて、イベンターと日本のバンド側の腕の見せ所だと思ういます。サポートのバンドを観ないことへの申し訳なさはありますが、バンド数が多すぎると時間的にも体力的にも見切れないです。最初から最後まで前列で観るという人は、正直“場所取り”をしている人も少なくない気がします。あと、ジャンルによって国内外敷居が高かったり、一体感も違うのかも。ガンズ&ローゼスのサポートについた、マン・ウィズ・ア・ミッションなどには違和感を感じました。個人的にはブラック・サバス人間椅子を一緒に観てみたいです!」

◆ブーイングが発生する悲惨な例も

 これらはどちらかというと洋楽寄りのファンの声だが、洋楽・邦楽両方を同程度聴いているという音楽ファンの意見も見てみよう。

「招いている国なんだから、サポートアクトをつけるのは大いにアリだと思います。呼んでいる国の代表ですよ。サポートのアリナシは純粋に好き嫌いだと思います。あとは本当にサポートする側に、出る価値があるか。たとえば、サポートバンドのファンが場所取りをしていて、メインのバンドが始まった瞬間に帰るケースはどうかと思います。お客さんのリスペクトも大事。バンドの好みを言い出したらきりがないし、呼んでいるプロモーターも商売ですから仕方ないですよね。ただ、サポートの国内バンドが有名なら、ステージ上で『いいバンドだから、最後まで観てけよ!』と言うべきです」(38歳・男性・レゲエファン)

 海外アーティストの地位が高く、国内アーティストは“前座”。そんなイメージが強いが、逆のケースもあり、それによって弊害が起きることもあるのだ。

「観てみたい組み合わせは、メジャーなアーティストならブルーノ・マーズ星野源とか。レゲエなら、ダミアン・マーリーとランキン・タクシー。客も食いつくし、お互いへのリスペクトが感じられるはずです。レゲエファンは数が少ないから、洋楽・邦楽ファンの垣根が低い気がします」

 また、これらは条件が合えば日本のアーティストも観てみたいという例だが、なかにはもっと悲惨な場合もある。

「以前、ノラ・ジョーンズを観に行ったら、サポートで日本のアーティストが出ていたんです。ライブはすごくよかったのに、会場内が『早くノラを出せよ!』みたいな空気になっていて、野次が飛んだり複雑な気持ちになりました。僕が国内外の理想のラインナップを考えるなら、ニーナ・シモンUAを観てみたいですね」(26歳・男性・ソウル&ジャズファン)

 還暦越えのオールドロックファンにも話を聞いてみたが、思いのほか日本人アーティストのサポートに関しては好意的な意見が返ってきた。

「チケットの価格がはねあがらないという前提ですが、いいと思います。そもそもメインの洋楽アーティスト目当ての客からすると、普段食わず嫌いをしている日本の音楽に触れる機会になって、仮につまらなくても特に損に感じません。同種のバンドを選ぶか、敢えてメインのバンドがムムっと思う相手を選ぶかというプロモーターのセンスも、ある種の楽しみになり得る。記憶にあるのは、大昔の後楽園球場でジェフ・ベックと一緒に出ていた四人囃子ですね。あれはフェスティバルのようなイベントだったと思いますが……」

◆日本とは違った海外の“前座”事情

 さて、ここまで日本人の音楽ファンの意見を聞いてきたが、外国人はこの問題についてどう思っているのだろう? 「いいと思います。プロモーターがいい仕事をしてくれれば、新しい音楽を学ぶのにちょうどいいです」というのは、アメリカン人男性(38歳・ヒップホップファン)だ。

「通常、アメリカではコンサートの開始時間が遅いので、日本よりもっと多くのサポートアクトがつきます。いくつかの地域で一緒にツアーを回るサポートバンドと、それに地元のサポートバンドが2つほどつくことが多い。地元の人気バンドが露出を増やす手段として定着しています」

 欧米ではサポートアーティストがつくことが文化として定着しているため、そもそも議論を呼ぶことが少ないという事情もあるようだ。

「ただ、これまで日本で中堅の海外アーティストを観たときは、サポートアーティストはついていませんでした。恐らく、日本のライブの開始時刻が早すぎることが最大の要因な気がします。アメリカに比べてライブのチケット価格が恐ろしく高いことを考えると、メインのバンドが終わったあとでもいいので、余力のある人が観られるようにもっと地元(国内)のバンドをつけたほうが得した気分になると思いますよ。たとえば大物アーティストならレディ・ガガきゃりーぱみゅぱみゅとか、ハマりそうな組み合わせはたくさんあると思います」

 開始時刻や、洋楽・邦楽の垣根、会場での過ごし方など、欧米とはライブ事情が大きく違う日本。「サポートアーティストの是非」というのは日本独特の問題なのかもしれない。

◆サポートする国内アーティスト側の意見は?

 では、当のアーティスト側はサポートを勤めることについてどう思っているのか? これまで多くの海外アーティストとプレイしてきたメタルバンド・SURVIVEのNEMO氏に話を聞いた。

 2月11日の渋谷サイクロン公演を皮切りに日本ツアーに挑むSURVIVEは、3月15日にイギリスのバンド・RAVENとも共演することが決まっている。まさに今回のテーマにも合致するわけだが……。

「俺は国内アーティストがサポートをやるのは、完全にアリだと思う。アーティストとしては、まったく違うオーディエンスの前でプレイできるわけだし、それこそチャンスだからね。オーディエンスとしても、自分が知らなかったバンドや音楽を知るキッカケになるからそれはそれでアリ。昔はよくそういうバンドを見ては、CDを探しに行ってたよ」

 いっぽうで、よりサポートアーティストが当たり前となっている欧米のほうが、実は過酷な面も多いのだとか。

「海外では絶対的にヘッドライナー(メインのバンド)様様なところがあるから、ヘッドライナーのサウンドチェックが押したりしたら、サポートバンドにその機会は回ってこない。ぶっつけ本番でやることも多いよ。プロモーターも明確に差をつけてくるしね。ただ、自分たちの立場をよく理解して、その先を目指す事ができるから、俺はある意味やりやすいね。ステージ上のドリンクの数、タオルの数まであからさまに違うからね」

 海外ではサポートとしてプレイできる機会が多いものの、そのぶんメインのバンドとのヒエラルキーも明確になっているというわけだ。

 しかし、それを乗り越えれば、そのリターンもまた大きいという。

「ライブを観て気に入れば、オーディエンスはもうとことんバンドをサポートしてくれる。買ったマーチャン(物販)を着て会場を練り歩くことから始まって、下手するとライブ後の街中でもそういう光景が見られる。本気でいいバンドはどんどんプッシュしていってくれるよ」

 また、インフラ面などでは“格差”があっても、アーティスト同士では分け隔てなく付き合えるのもサポートする醍醐味なのだとか。

「海外ツアーでは、みんな舞台裏でとても協力的で、お互いを支え合って一日がすぎていくんだよ。俺のギターパーツ壊れたときも、別バンドのメンバーがスペアパーツをわけてくれたり、ギターテックが修理してくれたことがある。とにかく舞台に立つ人々はリスペクトし合って、とてもいい関係でサポートアクトが演奏させる環境を作ってくれるんだよね。素晴らしい体験だった。呼称についても、日本の『前座』っていうのは昔の言葉だよね。俺は『サポートアクト』が一番いいかなと思う」

 オーディエンスからはさまざまな意見が出ているサポートアクトだが、国内バンドの底上げに繋がるという意味では、間違いなく効果があるだろう。

「世界で戦ってきたバンドからいろんな要素を吸収していく気持ちで一日すごすのは大切なこと。ステージクルーや音響、照明、バナーの配置からステージセットに何を使ってるか……。一日中、勉強できるいいチャンスだから、日本での活動や音楽を作るうえで、そのような経験を盗んでいくことが大切かな。大好きなバンドと同じステージを共にする……。たしかに素晴らしい経験だけど、それ以上に吸収できることが沢山あるし、それがその後の仕事になって活きるわけだから。サポートアクトは常に勉強だよ!!」

 貴重なお金や時間を使って観に行くライブ。「カスタマー」としては、国内のサポートアクトについて否定的な意見が出るのは、ある意味仕方ない部分もあるだろう。

 しかし、「リスナー」として考えた場合、音楽とはそもそも国境のないもの。国内アーティストには興味がないと思うなら、海外勢に対抗できるレベルになるよう、あえて「ジックリ観てやる!」という気概を持つのもいいかもしれない。

<取材・文/林 泰人>

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