水神屋食堂『チャーハン』

 水神屋食堂『チャーハン』

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 炊きたてのご飯で作る“しっとり”系のチャーハンです(冷飯だとパラパラのチャーハンになりやすい)。
小鉢はシラウオの煮干しでした。
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水神屋食堂

 ちなみに『しっとり系チャーハン』というジャンルは、存在します。



3/18(月) 8:00配信


 東京都板橋区東武東上線大山駅。駅と直結するアーケード街の「大山商店街」で知られ、昭和の下町の香りがぷんぷん臭うこのエリアは、昔ながらの個人商店も多く、飲食店の激戦区でもある。

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 この大山で、全国的に名をはせる中華料理屋が「丸鶴」だ。チャーハンといえば、いわゆる“パラパラチャーハン”が人気だが、それにあらがうかのように、丸鶴では“しっとりチャーハン”が人気を博している。その味を求め、北は北海道から南は沖縄まで、津々浦々からチャーハン好きが集まる名店だ。

丸鶴

【住所】東京都板橋区大山西町2-2
【営業時間】月・火・木曜11:00~14:50、水・金・土曜11:00~14:50、17:00~21:20
【定休日】日曜
飲食店の激戦区で50年の歴史を刻む

 東武東上線大山駅から歩いて7~8分、川越街道の一本西側にある「丸鶴」は、真っ赤な看板が目印。都内有数の商店街で知られる大山商店街から離れ、人通りが多いとはいえない立地だが、週末ともなれば店の前に終日行列ができる。

 丸鶴の創業は昭和42年。店頭に掲げられた「おかげさまで創業52周年」の文字がまぶしい。「たぶん大山では、初代で50年以上続いている店はウチだけだろうね」と話すのは、創業者で店主の岡山実さん。

 73歳になるという岡山さんの、スレンダーな長身を黒服に包んだ姿は、中華料理屋のオヤジというより、老舗のバーカウンターに立っていてもおかしくなさそうな雰囲気だ。実は岡山さんは、元カリスマホストで有名な城咲仁氏の実父。“この親にしてこの子あり”という感じだろうか。

 町中華そのものの店内は、カウンターとテーブルを合わせて定員20人ほど。ほかにも20人ほど入れる大部屋と、10人ほどが囲めるターンテーブルを備えた部屋がある。その全席がランチ時にはフル回転というから、いかに繁盛しているかうかがえる。

 「大山は、ここで10年店を続けられたら、日本のどこに行っても潰れないといわれるほど商売が難しい土地。大山商店街にも、10年以上続く中華屋はないからね」という岡山さんの言葉に、繁盛店を支えてきた苦労と自信がのぞく。

ゴロゴロチャーシューや溶岩のごときとび子に目を見張る

 何を食べても絶品と評される丸鶴だが、特に有名なのがチャーハンだ。雑誌でラーメン特集が組まれた場合でも、なぜか丸鶴のページだけはチャーハンが掲載されるほど。どうやら“丸鶴のチャーハンが載っていると雑誌が売れる”というのが、その理由らしい。

 それほど評判のチャーハンの中で、看板メニューとして絶大な人気を集めるのが「チャーシューチャーハン」。肉塊がゴロゴロ入ったその姿は、なるほどビジュアルだけでも一番人気というのがうなずける。米と肉の量はほぼ同じというが、どう見ても肉のほうが多そう。大盛りは驚がくサイズではないが、何しろ肉塊だらけなので食べごたえはありすぎだ。

 そしてこの肉が、うまいのである。肉は豚の肩ロースだが、よく見られるように紐で縛ることも煮込むこともせず、秘伝の自家製ラーメン醤油にじっくり漬け込んだもの。それが、パサつかずしっとり柔らかなチャーシューになるのだ。

 しっとりといえば、丸鶴のチャーハンは世に多いパラパラチャーハンとは反対のしっとり系で知られる。火入れをしていない固形のラードと炊き立てのふっくらご飯が、しっとりだがベタつかない、激うまチャーハンを生むのである。“失敗して柔らかくなっちゃった家庭のチャーハン”とは、わけが違う。といって、別に“しっとり”にこだわりがあるのではない。

 「そもそも昔のチャーハンは余った白飯で作っていたけど、余った白飯は固くなるから、パラパラになるのは当たり前。それがうまいチャーハンの代名詞のようになったけれど、自分は炊き立てのご飯で作りたい。ただそれだけなんだよね」(岡山さん)

 そしてもう1つ、最近人気を集めているというのが「とび子チャーハン」だ。トビウオの卵を塩漬けにしたとび子は、寿司屋では軍艦巻きでおなじみだが、まさかチャーハンに乗って出てくるとは……。「いったいこれは何?」と思えるほどオレンジ色に染まったその姿は、見た目のインパクトではチャーシューチャーハンをしのぐ。そして、口に含むとプチプチ感がたまらない。「これは旨いぞ!」となること間違いなしである。

神童か! わずか15歳で店長に

 「大山商店街のど真ん中の天ぷら屋の三男坊だった」という岡山さん。中華の道に進んだのは、なんと小学生のときだ。

 「うちの並びに中華屋があって、あるとき『おいボウズ、遊んでないで出前を手伝え』って感じで、気づいたらこの業界に入ってたんだよね」(岡山さん)

 その後、はや15歳でラーメン店の店長を任され、19歳のときに現在の場所に丸鶴を開いた。以来、年末年始や盆の時期を除き、日曜以外は毎朝6時には厨房に立つ生活を、50年以上にわたって続けている。

 実家の天ぷら屋を継ぐ気はなかったのかと問うと、「親父は半端ない腕の職人でね、厳しすぎてとてもついていけなかった」と岡山さん。そうはいうが、父親譲りのDNAは確実に受け継がれている。岡山さんの息子さんの城咲さんも大の料理好きで、一時は店を継ぐ気でいたようだが、岡山さんの働く姿を見て、あまりのハードさに断念したとか。「『店は継がない宣言』をされちゃったよ」と笑う。

 厨房での岡山さんの手さばきは神業に近い。何しろ、どの料理もあっという間に出てくるのである。チャーハンにいたっては、通常なら1分少々で登場する。あまりの早さに、初来店の客から「ちゃんと味つけしてるの?」と言われることもあるとか。

 丸鶴では、昼間に限りワンドリンクのみサービスされるアイスコーヒーも評判だ。昼休みが1時間しか取れないビジネスマンが食事の後、わざわざ別の店にコーヒーを飲みにいかなくてもいいようにとの思いから始まった。奥さんの可代さんが手間と暇をかけて作るお手製コーヒーは、かつて可代さんが喫茶店を経営していたというだけあって、本格派。これはとてもうれしいサービスだ。

 インターネットで「チャーハン」を検索すれば、“パラパラ”の文字が躍る昨今。丸鶴のチャーハンは、「やっぱりチャーハンといえばパラッパラでしょう!」という方にこそお薦めしたい、激ウマの逸品なのである。

(文・写真/エイジャ)