外来魚より怖い対お魚プレデター「カワウ」の話


4/2(火) 11:28配信

ルアマガ+

『ルアーマガジン・ソルト』編集部のフカポンです。
イメージ 1

さて、今回は地元で漁業組合に所属する私が、日々の河川での活動から見える諸々を少しご紹介しようかと思います。


カワウの問題から見えてくる「在来種」と「外来種」を巡るあれこれ

昨今、池の水を抜いてどうにかする的なTV番組が人気なこともあり、「在来種」とか「外来種」とかそういう野生生物のセグメントがあることを知った方も多いかと思います。在来種とは文字通り、日本の固有種とも言える生物。外来種とは外国由来で日本に繁殖、及び、定着した生物と区分しましょうか。

上記の番組でもそうなんですが、どうもしっくりこないのが、在来種が善で外来種が悪という白か黒かという極端な思考なんですよね。確かに外来種の定着は少なからず在来種に影響を与える原因ではありますが、その嫌われ度具合たるや脊髄反射的で……。いやいや、もう少し、全体のことを考えてみませんか? というのが今回の記事のテーマです。

外来種について

外来種とは他の地域から移入してきた生物のことを指しますが、外国からやってきた外来種だけでなく、ほかにも例えば国内の他地域から入ってきて既存の生態系に大きな影響を与えるような、国内生物の外来種も存在します。
外来魚より怖い対お魚プレデター「カワウ」の話【その1 カワウは悪者なのか?】

イメージ 2

意外と大きな魚でも平らげる吸引力

カワウという最強プレデター

現在、内水面における魚族の生態系に大きな影響を与えている種があります。それは外来種ではなく、在来種です。タイトルにもあるように、「カワウ」という鳥が内水面漁業に従事する人たちにとって悩みのタネになっています。

日本には大きく別けて、「カワウ」と「ウミウ」が生息していますが、「ウミウ」の生息圏は文字通り海です。「カワウ」はその名の通り、川や池、沼などの内水面、および沿岸域に生息する鳥です。

実はカワウは1970年代までに全国で3000羽程度に激減し、絶滅の危機にさらされました。しかし、東京は上野不忍池に残されていたコロニー(集団営巣地)から次第に分布を拡大し、関東一円はおろか、日本全国にその勢力を拡大していきました。

日本最大の湖、琵琶湖にいたってはカワウが数kmにも渡って列を作り、湖を移動しているなんて風景はさほどめずらしくない光景だったりします。

分布が拡大し、拡散することで日本各地の河川の在来魚はもとより、管理釣り場の魚、営巣地の糞害による森林の枯死が問題になっている……というのが大まかな「鵜害ストーリー」です。あ、それから在来魚どころか外来魚にも大きな影響を与えております。40cm程度のブラックバスならば、ペロリです(笑)。

カワウのスペック

さて、どれくらいヤバイのかを知るべく、カワウのスペックを列記しましょう。


■カワウ

目:カツオドリ目
科:ウ科
属:ウ属
体長:80~85cm
体重:1.5~2.5kg
行動力:航続距離10~90km、最大水深10m前後、川幅1~2m前後の小規模河川にも侵入可能
燃費:体重1kgあたり1日262gの魚食が必要
繁殖力:1回の営巣で卵1~7個、孵化必要日数24~32日、巣立ちまで31~59日

特に注目していただきたいのが、魚食性の強いカワウが1日あたりに必要とする魚の量です。体重1kgあたりで262gが必要ということは、平均的に1羽あたり300~500g程度の資源が必要ということになります。

私が漁協員を務めています入間川の漁協では、シーズンになると釣り人のために鮎を1000kg、ニジマスを600kg、ヤマメ・イワナで1000~1500kg程度、その他の雑魚含めると合計で3000~4000kgの放流をしております(少々ざっくりしております)。仮に、同水系にカワウが40羽いるとすると200日程度で放流量はペロリというぐらいになってしまいます。その半分だとしても1年もつかもたないか……。

川の持つ資源生産量なんてたかが知れておりますから、供給量、生産量にそぐわない食欲を、カワウたちが持っていることはご理解いただけたかと思います。それに加えて、釣り人や漁業関係者が魚を採捕するわけです(笑)。はい、そりゃ魚なんていなくなります(汗)。
見せてもらおうか、ブラックバスの性能とやらを

さて、外来種悪の筆頭にくるブラックバスが活動に必要な食事量を併記しておきましょう。

この魚の場合、ほぼ体重の10~15%程度の重量のエサを捕食する必要があります(日ではなく数日で)。平均的なブラックバスのサイズが500gだとしてその10~15%はつまり、50~60g。カワウにくらべれば個体数で差があるではないかという指摘もありましょう。なので私としても「環境に影響はありませんよね」と断ずるには少々弱いデータです。

ですが、ブラックバスだけを悪と血眼になる前に、もっと全体を見渡してほしい! と主張したい気分になるのは、カワウの破壊力を知ればご理解いただけるかと思います。

漁業組合員としては、ブラックバスを問題にする前に、カワウをなんとかしなければいけない! と、考えている人が多いことからも、そのインパクトを推し量ることができるかと思います(カワウがジオ◯グなら、ブラックバスはボー◯くらい戦闘力に差があります)。

イメージ 3

採捕されたカワウの胃の内容物の一部。ああ! 在来魚がこんなにも犠牲に!! なんて、カワウが食ってても誰も気にしません

増えたら駆除しましょう。減ったら増やしましょう。

イメージ 4

鳥がお好きな方には衝撃的な写真かもしれません。鳥獣保護法があり、駆除は国や県の許可をもって行われております

RADWI◯PSの歌詞ではないですが、人間様のご都合もあり、私の所属する漁協でもカワウを駆除することになりました。今年のカワウ駆除実績は、管轄下で現在、3羽です。ええ、3羽。1年で約550kgの食害を防ぐことにすでに成功しました!

毎年10羽程度は駆除されますので1年間で約1825kgもの被害を食い止めることが! めでたしめでたし……。と言いたいところですが、そんなに単純な問題でもありません。

カワウも賢いのです。罠がしかけられていたり、駆除をされていることに警戒したカワウは、別の水系へ移動するのでした。ということで、地域的にはめでたしなのですが、そのシワ寄せはどこかにきているわけですね。はい。つまり、駆除という方法はマクロ効果なのです。

そういうこともあり、関東一円では「関東カワウ広域協議会」なるものが発足し、一円でのカワウ被害を食い止める包囲網が生まれたのですが、まだ暗中模索状態といえます。

つまり、効果的と呼べるような対策が実際にあるわけではないのですが、目に見えて数が減ったように見える「駆除」という手法は手っ取り早く、なおかつ判りやすいので、行政にも訴えかけやすく、実行しやすい施策といえるわけですね。

ブラックバスもそうです。1925年に、食料になるからと放流され、いまでは生態系に影響を与えるからと駆除の筆頭対象になっている種です。確かに、無秩序に人に放流されるのは止めるべきです。ただ、いびつとはいえ生態系に組入れられた種を、諸々の影響なく駆除という方法で絶滅させることはほぼ不可能です。そのミクロな部分にとらわれるより、別の方法はないのでしょうか。
外来魚より怖い対お魚プレデター「カワウ」の話【その1 カワウは悪者なのか?】

イメージ 5

仕事として漁協としてもやっておりますが、複雑な心境なのであります……

「殺す」しかないのだろうか

人間の利益、生活の都合により、良きものとされたり悪きものにされたりと、そこにいる生物に罪はなくとも「都合が悪い」ので駆除されます。そして、駆除が最も効果的な方法と喧伝されているわけです。確かに個体数を減らせばわかりやすいですものね。明確な犯人を選定し、悪者は駆除、それは正義だと子供たちに教えられる……。

駆除の理由は「在来種を守るため、生態系を守るため」ということになっています。しかし、外来種をすべて殺せば「生態系は元に戻った」といえるのでしょうか。

例えば、日本の原風景だからと「アユ」は各地の川に放流されています。在来種だから問題ない、魚をブラックバスみたいに「食べたり」しないからOKなのでしょうか。そんなことはありません。生態系について言えば、なかなか大きなインパクトを与えています。特定産地種の遺伝子の拡散と撹拌という問題もあります。でも、悪者にはされません。

この問題はなかなか落着点が見えません。

言いたいことは、アユを敵にしたいわけでもありませんし、ブラックバスを敵にしたいわけでもない。そして、カワウもです。

ひとつの方法として「魚を増やす」という選択肢もある

そんなふうに悶々としておりましたが、漁協員として川の環境を見てきて、「あれ? 単純だけど一番これが魚族資源の増加に低コストで効果のあることなんじゃないか」という手法があります。カワウだけに留まらず効果的な手法です。

次回は、実際に地元漁協で行った、極めて効果的で単純な魚族の増殖法について解説したいと思います。まぁ、在来魚も増えますが、外来魚も増えちゃいます。でも、「駆除」という方法よりも健全じゃないのか、効果があるんじゃないかと思うのですよね。「カワウ」にしろ、「ブラックバス」にしろ、我々の都合だけで悪者にしてしまっては、あまりにも不憫だと思うのです。

本当に在来魚を減らしている原因は何なのか? 本当に守るべきは何か? それを理解すれば、おこがましくも人間のやるべき「調整」の方法が見えてくる気がするのです。

イメージ 6


ひとつだけヒント画像を。ええ。実はたいしたことではありません。

ルアマガ+編集部


ルアマガ+

さて、前回、内水面漁業従事者の悩みのタネになっている、カワウという鳥について少し解説させていただきました。

カワウの魚を捕食する戦闘能力がジ◯ングなら、ブラックバスは◯ールくらいですと例えを使わせていただいた通り、カワウが内水面の魚類資源に与える影響はブラックバスなど外来魚の食害が霞むほど甚大なのです。

イメージ 7

駆除ではない選択肢を提示します

絶滅の危機から一転、増えすぎてしまったカワウがもたらした問題

カワウは一時絶滅の危機にさらされましたが、今は数が大いに増え、日本各地(本州の関東、東海、近畿以西)に姿を表わすようになりました。当然、生き物ですから食事をしなければいけません。彼らの食事は魚類です。しかし、湖、沼、河川の魚類資源は有限です。

彼らが飛来しては、どんどんと魚が減っていく事態になっているわけです。鳥ですから、魚を食い尽くせば次の水系へ、次の沼へ湖へと移動することも訳ありません。なおかつ、ジャンプすればまたげるぐらいの規模の小川にさえ飛来することができる、小回りのよさもあります。

その対抗策として「駆除」という方法が採用されているわけですが、その効果は限定的で、問題の根本的な解決になっていないことにも触れさせていただきました。このままでは、在来魚はおろか、外来魚まで食い尽くされてしまいかねない事態になりつつあります。

では、そもそも、どうしてこんな事態になったのか。Let's thinkingしてみましょう。
外来魚より怖い対お魚プレデター「カワウ」の話【その2 駆除ではない選択肢】

イメージ 8

コンクリートで覆われ排水溝としか言いようがない川がたくさん増えました


なぜカワウは増えたのか

彼らが増えた理由は、まだ正確にはわかってはいいません。ただし、1970年代初頭、カワウの数は激減し、一部のコロニーでほそぼそと暮らすほどにその数は減少しました。まさに日本の高度経済成長期で環境が劣悪になった頃に符号します。

川はまっすぐになりました。通水性をよくすることで破堤を防ぎ、水を溢れさせず、そして土地区画は利用しやすくなりました。人が生活する権利を拡大するためです。日本の自然は人間の暮らしやすい形に加速度的に変貌していきました。三面護岸という、生物にとっては非生産的な渓相がどんどんと出現しはじめました。

しかし、カワウは1980年代初頭より、徐々に個体数が増加しているというデータがあります。様々な公害、高度成長期の自然破壊に対し、ちょっと日本はやりすぎたなと環境に気を使い始めた時期ですね。そこから上下水道の整備、空気汚染などに対する行政の指導などなど、汚かった川がきれいに、海がきれいに……と良い方向に変化していきます。

内水面資源の養殖も1983年頃をピークに安定しはじめます。

そして1990年代の釣りブームへなだれ込みました。サケ・マス類の養殖技術、アユの養殖技術などが確立され、日本各地の河川に気軽に放流されるようになりました。

データと照らし合わせるとこのあたりから比例するようにカワウも増加傾向にあるようです。

魚を増やそうと漁礁を設置したら釣り人から苦情が……

カワウにとって、とても良かったのは、放流された魚たちが増え、身を隠すような岸辺のボサもでき、岩や石でゴツゴツとした川底もずいぶんと減ってしまったことから、食事がしやすい環境が整ってきたんですね。

放流形態も大型の障害物に隠れることを知らない成魚が好んで放流されるようになり、それを狙って「待ってました」とばかりにカワウの大群が現れることもしばしば……。

イメージ 9

護岸にボサがあるとカワウはなかなか着水できません。でも、キレイに伐採されていればご覧の通り

イメージ 10

ボサを伐採すると川にかかるシェード(影)がなくなり、水鳥はもちろん、釣り人にとって、魚を狙いやすくなります

環境が貧弱になったからこそ起こり始めたカワウによる食害

そこで、私の所属する漁業組合では、一部地域の川岸の伐採を中止してみました。

なんてことはありません、障害物を増やすという手法を試してみたんですね。川岸のボサは川に影をつくり、一部は障害物となって河川に干渉します。すると、魚が目に見えてその区域に増えたのです。

地元漁協では水際のボサは残し、必要最低限の環境保持をしてみることになりました。もしくは、一部流程の伐採をやめました。

すると、夏場になると水際のボサは繁茂し、魚が隠れやすく、なおかつ水鳥の侵入や、釣り人が狙いにくくなったことから、魚が増えるという現象が起こりました。

木々や笹を束ねた魚礁を、三面護岸の川の深みに設置しました。ここでも魚が増え始めました。ブラックバスなども増えましたが、在来の魚たちもおおいに増えました。水中のオダにはカワウも無理くり侵入できませんし、ブラックバスなどのフィッシュイーターから身を護るのにも一定の効果があります。

ただし、釣り人から苦情を受けました。「釣りづらい」と。ついでに、行政からは景観が悪いとも指導を受けました(笑)。
魚を増やすには?

私は個人的に淡水魚を捕獲するのが好きで、埼玉のまさに三面護岸の水路によくでかけます。そこは一見、生物を寄せ付けないようなコンクリートで固められた水路です。ですが、ブラックバスもいれば、ナマズもいますし、お目当てのタナゴやヌマムツ、ツチフキやドジョウ、そして、フナにコイが数多く生存し、共存しています。

はて、なんでこんな水路にこれだけ豊富な魚がいるのかと一考してみたところ、外来種となる水生植物「アナカリス」が水路の泥に数多く繁茂していたんですね。アナカリスが魚たちの隠れ家になっていました。

捕食者たるものに追われたときに、身を隠す障害物がどれほど重要か、その認識を深める風景でした。

つまり、ものすごく原始的かつ単純な手法ですが、魚が身を隠す障害物を設置するという方法は、魚の保護に一定以上の効果があることが良くわかりました。障害物が増えると、カワウが水面に着水しにくくなります。石や、オダ、枝が増えると縦横無尽にカワウが追い辛くなります。鳥だけでなく、ブラックバスなどの魚もしかりです。

このような取り組みで生物の生活環境全体を増やすことで、バランスを失った生態系という天秤が揺り戻され、特定の種が必要以上に増えたり、逆に減小したりというような環境から健全な方向に戻っていくことを感じています。

※単純に障害物は増やせばよいというわけではなく、河川の状況によっては流下物の漂着や滞水の原因になるなど、治水上の問題が生じることもあります。

ならば障害物を増やそう、川を元に戻そうという単純な問題でもない

要は、河川環境をより自然に近づけることで、状況は改善するわけですが、それが比較的簡単にできる規模の川もあればそうでない川もあります。この単純なロジックに気づき、護岸された河川を、障害物が豊富な河川へ戻すような工事を始めた水系もあります。

治水と自然環境の維持を両立させようと、多自然型工法というスタイルも普及し始めています。

蛇籠護岸という景観のあまりよくない工法もありますが、こういったものでも三面護岸よりは遥かに生物には優しかったりします。もちろん、単純に予算の関係で、こういった工法が採用されている場合もあるのでしょうが、コンクリートで隠れ家のない水路にするよりは幾分ましでしょう。

河川周りの自然環境を増やすことが有益となるようなコンセンサスが得られる国内の一部地域や海外では、築堤をやめて土地をセットバックし、氾濫原を復元するという取り組みも行われています。では日本全体でこのようなことができるかといえば、人口が過密化した都市では難しいでしょう。生活空間と治水のあり方をどのようにするのか、という都市デザインの話でもあります。


イメージ 11

かつて日本一汚い川を襲名したこともある埼玉県の不老川ですが、オダや魚礁を入れることで、魚が戻ってきました
イメージ 12

このような光景はやはり見たくないものです。駆除ではない選択肢にも目を向けられるようになってほしいと願うばかりです
何をもって駆除したいのかを考える

さて、話を外来種をどのように考えたらいいのかという視点に戻します。良くも悪くも、定着から長い時間を経て既存の生態系の中に組み込まれてしまった多くの外来種たち。駆除という手法より、環境を改善して行くほうが容易いのではないかと提言させていただきました。そこに意識を向ける道もあるのではないでしょうか。

「日本古来の地域特有の生態系を回復したい」という思いであれば、ではどこまで遡った生態系であればいいのか。結局のところそれを決めるのは生活する人間の都合ということになるでしょう。

単純にカワウが嫌いだから駆除する。ブラックバスが嫌いだから駆除する。というだけの論法は否定しませんし、よっぽどわかりやすいです。

ただ、生態系の破壊にも繋がりかねない方法で駆除を行い「我々は環境の守護者だ」と息巻くのはあまりにも滑稽な気がします。後付のように「本来の生態系を取り戻すため」という御旗を掲げるのはどうにもしっくりきません。

最後になりますが、望まれない種を持ち込むことにより生態系を破壊してしまうという事象は、あらゆる物流網が発達した現代では避けられない問題になっています。ですので、「今、そこにある生態系」を崩さぬよう、個々のリテラシーを高めていくことが非常に重要です。魚に限らず、人間の都合で、自然環境に新たな問題を持ち込まぬよう、心がけたいところです。

ルアマガ+編集部

個人の意見

 河川工事による様々な護岸を観てきた。
いつか、それをまとめてお目に掛けたい。