スポーツフィッシング人口増加中のタイ。注目される日本の「釣具」


5/1(水) 15:30配信

HARBOR BUSINESS Online
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 タイが観光国として世界的に人気なのは寺院や遺跡などの名所もあれば、海や山などの自然も多く、タイ独特の風景が見られることにある。アクティビティーも多数あり、近年は釣りも盛んになってきた。

 タイの釣りは以前からタイ好きの釣り師には有名で、日本で釣れない巨大魚がいるなど、タイならではの楽しみがあった。釣り堀ではアリゲーターガーといったアマゾンなどにいるモンスター級の魚が釣れ、タイとラオスの国境を流れるメコン河に生息するメコンオオナマズなど淡水魚も豊富だ。タイ湾やアンダマン海では海釣りも堪能できる。自然豊かなので、釣りのポイントが多数あるのだ。

◆タイでも増えてきたスポーツフィッシング人口

 タイの釣りが注目され始めているのは、タイ人も釣りを楽しむようになってきているからだ。芥川賞作家の開高健は著書『地球はグラスのふちを回る』(新潮社)に掲載されている「釣れるものは全部釣り上げたい」でこう述べている。

「それがバンコックへ行くと、仏教の殺生戒のせいだけじゃないと思うんだけど、遊びで釣りをしてる人がいないんだ。」

 タイ人にとって釣りは「狩り」であり、食べるために捕る。おそらく昭和50年代前半にバンコクで見てきたことを開高健は書いていると見られるが、それは今もあまり変わっていない。ただ、近年はいよいよスポーツ・フィッシングがタイ人の間でも広まってきている。タイの玄関であるスワナプーム国際空港の東(バンコクとは反対の方向)のサムットプラカン県やチャチェンサオ県にはバラマンディ(スズキの一種)やエビ、ナマズなどの養殖池がある。こういったところは地主がスポーツとして釣りを楽しむタイ人に開放するなど、タイのフィッシング市場が拡大しつつある。

◆市場拡大の立役者は日本の釣り業界!?

 その拡大を牽引するのが、実は日本のフィッシング業界だ。2019年3月29日~31日、バンコク郊外のコンベンションセンターで開催された「タイランド・スポーツ・フィッシング・トレード&エキシビジョン」に参加していた「株式会社ニシキ」の鈴木貴夫氏に話を伺った。「ニシキ」社は本来は京都で数珠などを収める化粧箱などを製造する老舗企業だ。鈴木氏はそういった製品をタイに売り込むため2003年ごろからタイに来るようになったが、子どものころから好きだった釣りもタイで楽しみ、2017年から釣り具の輸入代行も手がけるようになった。

「主に『ディーパーズ・ファクトリー』のメタル・ジグ(金属製の疑似餌)などをタイに届けています。このジグは土佐の船頭が実体験から開発したもので、非常に優れたジグです。タイ国内では『セブン・シーズ』といった有名なプロショップで扱ってもらうなど、タイ人にも人気がありますよ」

と、鈴木氏は言う。

 実際にイベント会場ではタイ人や白人の釣り師が「ディーパーズ・ファクトリー」の直営ブースの前で足を止める。メーカースタッフが直接商品の魅力を伝えていた。このように、鈴木氏と「ディーパーズ・ファクトリー」社はただタイに釣り具を送っているだけではない。

「まだ4回ほどではありますが、道具の使い方、釣り方を教えることもしています。「セブンシーズ」などでツアーなどを開催し、私や日本人のスタッフも参加してタイ人の釣り師にジギングなどをレクチャーしています」

 タイ人も釣りに興味を持ち始め、またネットの発達で優れた釣り具を探し求めている。その中で一番に目に留まるのが日本の釣り具だ。同じイベントに出店していた和歌山県でオリジナル・ルアーなどを製造・販売する「有限会社ガンクラフト」の掛(かけ)康太郎氏が言う。

「世界中の釣りのアイデアは日本発信がほとんどです。ジグ(疑似餌)を使った釣りをジギングと言いますが、元々日本人釣り師の間の言葉で、それが今では世界中に広まっています」

 世界のフィッシング市場では日本が最先進国なのだ。やや新し物好きの傾向があるタイ人はなおさら日本の最先端には目がない。しかし、まだ遊びとしての釣りが始まったばかりで、日本の釣り具の使い方がいまいち理解しきれない。そこで鈴木氏が日本の釣りをタイ人に知ってもらおうと動き出したのだ。先日も鈴木氏らはタイ人釣り師を引き連れ、ミャンマーの海へと繰り出したという。趣味と実益を兼ねた楽しい仕事に見える。

◆今後は日本の釣り業界もインバウンドと世界進出

 しかし、こうしたタイの盛り上がりを、日本の釣り具市場はまだ活かしきれていない面も否めない。前出の「ガンクラフト」社の掛氏がこう話していた。

バス釣りで見ると、20年前は日本国内の釣り人口が3000万人規模だったのに対し、現在は900万人規模にまで減りつつあります。一方、ユーチューバーの影響などで釣りを始めたいという人は着実に増えているんです。ただ、初心者向けのプロモーションが日本の釣り具業界は弱いので、その層を取り込めていません」

 釣り熱が高まりつつあるタイは同時に2013年の観光ビザ緩和から、日本旅行がブームになっている。すでにブームから6年で、今や初級ルートを卒業したタイ人が多い。中には日本で釣りをしたいという人も現れているし、釣具店でグッズを購入するタイ人も増えてきているという。日本のフィッシングショーも外国人が増加している。ところが、たとえば日本の釣り船などは外国人受け入れの態勢が整っていないのも事実だ。せっかくの新規客層を日本のフィッシング業界は全般的に取りこぼしてしまっている。

 しかし、逆に言えばこの弱点を克服することで日本の釣り具業界は飛躍的に伸びる可能性があるとも言える。釣りはジャンルが細かく、掛氏曰く「ジャンル違いは別業界」というほど、ターゲットが分散されて絞ることが難しい。その中では狙うべきは海外市場だ。特にタイのように未成熟でありつつ、受け入れ態勢が万全な市場なら今からでも入り込む余地はたくさんあり、ここで得たノウハウを日本の「釣りを始めたい」層を取り込む戦略に活かせる。

◆「本物志向」のタイ人釣り師を取り込め

「ニシキ」の鈴木貴夫氏は最後にこう話す。

「タイ人釣り師のレベルは高いです。日本メーカーの模倣品が安く出回っていたりしますが、今のところ彼らは本物をほしがる傾向にあります。日本製は輸出入の経費がかかりますから日本よりも割高になるものの、それでも今は売れるんです。私は出張ベースで訪タイしていますが、たくさんのタイ人と釣りで繋がることができたので、今後も日本の釣りをタイに広めていきたいと思います」

 日本のフィッシング業界は、特に小さな業者が世界に向かって動き始めたところだ。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>

たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス

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