釣れた魚を分け合うフィッシュ・シェアリング 子ども食堂にも提供/尼崎

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7/5(金) 10:54配信


 釣れた魚を地域で分け合う「フィッシュ・シェアリング」。兵庫県尼崎市の渡船業「武庫川渡船」がそんなユニークな取り組みを進めている。今年4月から釣り過ぎた魚を引き取って切り身に加工し、市内の子ども食堂などに無償で提供。同渡船は「地元の魚のおいしさを知ってもらい、『食』につなげることで命を生かしたい」と願う。

 武庫川河口(尼崎、西宮両市)から約1.5キロ沖の大阪湾に設置された防波堤「武庫川一文字(いちもんじ)」(通称)は、クロダイ(チヌ)、スズキ、ブリ、タチウオなど豊富な魚種で知られる人気の釣り場。県内外から年間約4万人が訪れ、同渡船は防波堤に釣り人を船で送迎している。

 「皆さんにどうぞ」。6月上旬、同渡船の船着き場。大阪市西淀川区の直島豊則さん(62)が、釣り上げた30センチほどあるクロダイ3匹を持ち込んだ。スタッフが手際よくさばき、うろこや内臓を除去。切り身は余分な水分を取って急速冷凍する。同渡船支配人の宮本悦男さん(40)は「すぐに下処理すれば臭みも出ない。この一手間が重要」と話す。

 阪急塚口駅に近い尼崎市立地域総合センター上ノ島。毎月2回、無料で食事を提供する子ども食堂塚口みんなの食卓」に約60人が集まった。今日のメインは「白身魚フライのタルタルソースがけ」。同渡船から提供されたクロダイやスズキが約150個のフライになった。小学5年の保月姫(たもつるな)さん(10)は「さくさく、ふわふわでめっちゃおいしい」。

 食材の寄付やボランティアに支えられている子ども食堂では、冷凍保存でき、加工に手間がかからない肉は使いやすい。一方、魚は塚口みんなの食卓でもほとんど使っておらず、代表の岩崎晶子さん(57)は「下処理してくれるのはありがたい。子どもたちがたくさん食べてくれて大成功」と喜んだ。

 宮本さんは昨年から、釣果ゼロでも気を落とさないよう釣れた人からの「お裾分け」を釣り場でしていた。そんな折、市内のイベントで子ども食堂の関係者と知り合い、食材調達などの現状を聞いた。同渡船は調理場や大型冷蔵庫を備えており、下処理や保存も可能。子ども食堂への無償提供を思い立った。

 さらに市内の飲食店にも「武庫川産」の表示を条件に魚を提供。国の大阪湾環境データベースによると、大阪湾奥部は1980年代に比べて窒素やリンが減少し、水質は大幅に改善している。「地元の魚に親しんでほしい」との思いがある。

 宮本さんは「魚は限りある資源であり命あるもの。しっかりおいしく食べてほしいと考えた。釣りは食育にもつながる。この取り組みを続けていきたい」と話している。

 武庫川渡船(06・6430・6519)。【前本麻有】