「第3のビール」異変、麦芽系が“主戦場”に


 ■節約志向も飲み応え追求

 食品の相次ぐ値上げで低価格の第3のビールが伸びるのはほぼ確実視されているが、なかでも麦芽を使った「麦芽第3のビール」が主流になりつつある。第3のビールはこれまで、麦芽を使わないすっきりしたタイプが大半を占めていたが、消費者の節約志向を背景に本来のビールの味わいに近づけた麦芽系が急速に伸び始めている。

 キリンビール麦芽を使わない「のどごし〈生〉」に第3のビールの軸足を置いてきたが、麦芽シフトした消費者の取り組みを強化。17日に若者向けにアルコール度数を4%に抑えた「スムース」を発売。10月には逆に従来品より2%程度アルコール度数が高い7%の新商品「ストロングセブン」を投入する。多様化する消費者のニーズをくみ取る戦略で巻き返しを図る考えだ。

 ビール各社が第3のビールに注力するのは、食品や日用品の相次ぐ値上げで消費者が生活防衛意識を高めていることが背景にある。

 ビール類で最も安価な第3のビールの出荷数量は、5~7月と3カ月連続して発泡酒を上回り、“第2”の地位を固めつつある。

 なかでも麦芽系は飲み応えを求めるビール党が支持。1年半前までは第3のビールの出荷数量の10%程度にすぎなかった麦芽系は今年7月に単月で44・4%にまで上昇した。

 アサヒビールの泉谷直木常務は「ビールが飲みたいけど生活必需品の値上げで生活費に余裕がない。ビールに似た味で我慢する動きが麦芽系を押し上げている」と話す。同社の麦芽系「クリアアサヒ」は、約2カ月間で年間販売目標の3分の1を販売したことから、7月下旬に販売目標を300万ケース(1ケース=大瓶20本換算)多い1300万ケースに上方修正した。9日からは四国工場(愛媛県西条市)でも生産を始め、国内7工場を稼働させて増産する。

 サッポロビールも「麦とホップ」が好調で、生産工場を増やしている。サントリーは「金麦」を5月にリニューアルした。

 麦芽系は後発のキリンが本腰を入れることもあって、「9月以降、単月で麦芽系が過半を占め、第3のビールの主流になる」(業界関係者)との声が強まっている。

 モルガン・スタンレー証券の出村泰三エグゼクティブディレクターは、「第3のビール1缶(350ミリリットル)当たりのもうけは約35円と発泡酒より多い。ビールが低迷する中、発泡酒から麦芽第3のビールに生産の軸足を移すことができれば業績にもプラス」と指摘する。

 一部の発泡酒の生産中止を決め「金麦」に力を入れるサントリーは、今年上期(1~6月)のシェアでサッポロビールを抜いて3位になっただけでなく、2008年12月期にビール事業では参入以来初めて黒字を達成できそうな勢い。伸び盛りの麦芽系は、将来的に第3のビールの市場規模をビールと肩を並べるまでに押し上げることも予想される。