日本のアメコミ市場拡大か


nikkei TRENDYnet 8月31日(金)11時6分配信

 8月14日から公開が始まった映画『アベンジャーズ』。アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソーなど、人気のヒーローが勢ぞろいし、米国では“夢の映画”とも呼ばれるこの映画。全世界の興行収入は8月27日までの集計で14億9180万ドル。『アバター』(27億8230万ドル)、『タイタニック』(21憶8520万ドル)に次ぐ、ヒット作となっている。


 『アベンジャーズ』に登場するヒーローは、すべて米国の漫画会社マーベル・コミックの作品に登場するキャラクターたちだ。マーベルは、8000を越えるキャラクターを擁している。

 スパイダーマンX-MENなど、マーベルのキャラクターを題材にした映画はどれもヒットを記録しているが、マーベル自身が映画の制作に本格的に参入したのは08年の『アイアンマン』が最初で、実はまだ日が浅い。

 コミック会社であるマーベルが、映画制作に取り組むきっかけはなんだったのだろうか。また、世界のなかでも米国コミック原作のヒーロー映画が当たりにくいといわれている日本の市場をマーベルはどのように考えているのだろうか。

 マーベルの映画制作会社である、マーベル・スタジオズのCEOであるケヴィン・ファイギ氏にインタビューした。

 08年の『アイアンマン』、11年の『ソー』と『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』……。マーベルは、『アベンジャーズ』の公開に向けて、この映画に登場するヒーローの単独作品を順次製作。それぞれ大ヒットを記録させることで、『アベンジャーズ』への期待感を高めてきた。自社のキャラクターを上手く使って、『アベンジャーズ』を成功させたわけだが、アベンジャーズ計画はいつから始まっていたのだろうか。

――『アベンジャーズ』は、今年のNo1ヒット作はおろか、歴代3位という世界的な成功を収めているが、これは予想通りか?

ケヴィン・ファイギ氏(以下、K): この作品は、信念をもって、約6年をかけて取り組んできた。これまでの単独作品の結果から、ある程度のヒットは期待していたが、これほどまでにいくとは正直思っていなかった。

――マーベルのコミックは長い歴史があり、ヒーローが集結するこのアベンジャーズという作品も、コミックでは1960年代からある。アベンジャーズの映画化の構想は、いつから始まったのか?

K: 7年前からだ。マーベルの映画スタジオであるマーベルスタジオを作るための資金が集まり、ファンドを設け、最初に制作した作品は『アイアンマン』だった。この『アイアンマン』の制作の中盤で気がついたことがあった。それは、これまでマーベルはキャラクターごとにメジャースタジオに権利を売り、メジャースタジオが制作してきたが、彼らにはできないことがある。それは、複数のキャラクターを総動員して映画をつくることだ。これは、すべての権利をもつマーベルしかできない。

 そこで手始めとして、アベンジャーズというチームを結成するニック・フューリー役のサミュエル・L・ジャクソンに、『アイアンマン』のラストシーンに登場してもらい、アイアンマンに向かって、「君は大きな宇宙の一員だ。だが、まだそれに気がついてない」というアベンジャーズをにおわせるような台詞を言ってもらうことから始めた。

――それまではメジャースタジオに権利を売っていたマーベルが、映画に本腰をいれるきっかけはなんだったのか?

K: 私はマーベルで映画製作に携わって12年になるが、さきほど述べたように、当初は他のスタジオに権利を売り、他のスタジオが映画をつくってきた。資金面を彼らがリスクを負う代わりに、クリエイティブ面での采配も彼らにあり、我々はコントロールできなかった。そして、もちろんヒットすれば、利益はすべて彼らのものだった。

 しかし、『Xメン』(2000年)や『スパイダーマン』(02年)といった作品のヒットが実績となり、我々でも資金を集めることができるようになった。そこで、自社のスタジオを作るに至った。我々としては、自分たちのキャラクターなので、他のスタジオに勝るとも劣らない作品が作れるという自負があった。

――以前はパラマウントと提携していたが、ディズニーがマーベルを買収したことでその体制が変わった。なにか変化はあるか?

K: 『アイアンマン1・2』『ソー』『キャプテン・アメリカ』は、マーベル社が制作費を出し、パラマウントは、あくまでも宣伝と配給を担当していただけ。ディズニーがマーベルを買収し、今回、この作品で初めて宣伝と配給を担当してくれている。制作の資本については、すべてマーベルが行っている。これからもこの体制に代わりはない。

 『スパイダーマン』シリーズなど、一部を除き、これまでアメリカのヒーローキャラクター映画は、日本ではなかなかヒットしないといわれてきた。しかし、『アベンジャーズ』は日本でもオープニング6日間で13億8000万円、動員94万人を記録する好調なスタートを切った。公開12日間の成績では、2012年洋画公開作品では20億円の大台を最速で突破。この背景には、ディズニーとの関係が大きく影響しているという。

――ディズニーとの提携で、何か変わる可能性があると考えるか?

K: ディズニーは、世界中で愛されている会社だ。そしてなんといっても、映画やキャラクターについてのマーケティングや配給に関して、非常に長けており、特に、日本では大成功を収めている。今は、まだ日本ではそれほど認知度の高くないマーベルのキャラクターも、ディズニーの他のキャラクターのように、日本でも浸透させることができるのではと考えているし、またそれを楽しみにしている。

――マーベルのキャラクターは、日本ではまだ認知度は低いと考えている?

K: 私自身はその認識を強く持っている。だからこそ、これからディズニーが我々のキャラクターを日本に浸透してくれることを楽しみにしているし、今回の『アベンジャーズ』の宣伝にも非常に力を入れてくれたおかげで、『アベンジャーズ』に出演しているキャラクターに関しては、日本でもある程度、認知が高まるのではないかと考えている。この作品をきっかけにして、より多くの日本人の方にマーベルのキャラクターを知ってもらい、さらに一歩進んで、好きになってもらいたい。

――『アベンジャーズ』は、アメリカでは人気キャラクターが集結する夢の映画といわれるが、日本では、入門編のような役割と考えているということか?

K: その通りだ。特に米国の観客にとっては、いままで親しんだキャラクターが集う楽しみがある。しかし、『アベンジャーズ』は、日本だけでなく、ロシア、中国、ドイツなど、そこまで親しんでもらってはいない国でもヒットを記録している。脚本を作る際には、一人ひとりのキャラクターを知らなくても十分に楽しめることを重視したので、入門編といっては変だが、この作品からキャラクターに興味を持ってもらえればと思う。

――このほかに、日本の市場でのヒットに向け取り組んだことはあるか?

K: 単にヒーローものとしてでは、これまでの作品と同じ層にしかアピールできない。そこで、戦略的に、公開日を世界で最後にした。今年最大のヒット作となったことで、「それなら観てみよう」と考える人もいたのではないかと思う。

――日本では、今後も特別な戦略をとっていくか?

K: 30~40年をかけてキャラクターをヒットさせてきた実績があるので、それを参考にしながら、マーベルのキャラクターにも応用していきたい。

――すでに『アイアンマン3』や『キャプテン・アメリカ』などの、それぞれのキャラクターの続編が決まっているが、アベンジャーズの第二弾もあるのか?

K: 8月末にロンドンで『ソー』の続編の撮影が始まる。『キャプテン・アメリカ』も来年制作が始まるが、そのなかでは他のヒーローも登場させる予定だ。また、今回の監督のジョス・ウィードンと、つい最近、『アベンジャーズ2』の監督と脚本を担当してもらう契約を結んだ。

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 米国コミックが原作のヒーロー映画は弱い日本だが、『アベンジャーズ』は幸先良いスタートを切った。この作品を足がかりに、映画からキャラクター商品などの分野での市場拡大も狙える。ディズニーとの提携は、特に日本においては、マーベルにとって大きなメリットとなっているようだ。

(文/羽田健治=日経トレンディ

個人の意見

 ジャスティスリーグのテレビ録画を確保していますが・・・コッチの正式な映画化も待ち遠しい。