「船場吉兆」廃業へ、偽装・使い回し発覚で客離れ進む


5月28日3時11分配信 読売新聞

 牛肉産地偽装事件などで経営が悪化し再建中の料亭「船場吉兆」(大阪市民事再生手続き中)は、廃業することを決め、27日、幹部従業員らに伝えた。

 28日に湯木佐知子社長(71)が全従業員に伝え、取引先の金融機関にも説明する予定。

 相次ぐ食品表示偽装に加えて今月上旬、客の食べ残した料理を使い回していたことが新たに発覚した。

 これ以降、急速に客離れが進み、収益確保の見通しが立たなくなった。同社関係者によると、吉兆グループ各社や他企業からの支援も取り付けることができず、再建断念を決めたという。


5月28日21時34分配信 産経新聞

 食べ残し料理の使い回しで顧客の不信感が頂点に達し、廃業に追い込まれた老舗料亭の「船場吉兆」(大阪市中央区)。食品の偽装では現場や取引先に責任を転嫁し、「一から出直す」と再出発を誓ったときも使い回しを公表せずに、ウミを出し切らないまま営業再開を強行した。一連の経営陣の対応について、危機管理に詳しい専門家は「最悪のフルコースだった」と指摘。食材から建材まで各分野で偽装が相次ぐ中、船場吉兆の廃業は企業倫理のあり方に改めて教訓を残した。
■断言したウソ
 「仕入れ担当者だけが知っていた。(偽装を知っていたのは)1人だけです」「納入業者に裏切られた」。同社の不正への対応は、「ウソ」と「隠蔽(いんぺい)」に始まった。
 物販商品に使用していた牛肉や鶏肉の産地・原材料偽装が明らかになった昨年11月、当時の湯木正徳社長(74)は自ら仕入れにかかわっていたにもかかわらず会見で、「料亭で偽装はなかったのか」と問われた際、こう言い切った。
 「ない。断言できる」
 それから、わずか10日足らずで本店や心斎橋店(1月に閉店)での料理偽装が露呈。営業休止を余儀なくされた。
■再出発後の隠蔽
 大阪府警強制捜査を受け、マスコミの取材が過熱する中、同社は代理人弁護士を選任するまで広報窓口を一切置かず、本店は、問い合わせの電話にも無視を決め込んだ。
 苦情が集中した心斎橋店の従業員は「本店が電話に出ないから、朝から晩まで謝りっぱなし。社長はなぜ対応しないのか」と記者の前で涙を流した。
 資金繰りが悪化し、民事再生法の適用を申請した船場吉兆は1月21日、本店の営業再開を発表する。隠蔽体質からの脱却をアピールすべく、調理人らを金屏風(びようぶ)の前に整列させ、「信頼回復に向け、一丸となって再出発する」と女将の佐知子新社長(71)が宣言した。
 しかし、食べ残しの使い回しについては調理場全体の共通認識だったにもかかわらず、会見では一切、言及しなかった。
 佐知子社長は使い回し発覚後に「3月に大阪府警の事情聴取を受けたときに初めて知った」と釈明したが、本紙が4月に取材した際、代理人を通じ、「そうした事実は判明していない」と回答している。
■最悪のフルコース
 「企業が不祥事で失敗するときの、すべてのパターンに当てはまる」
 農林水産省主催の「食品産業トップセミナー」で講師を務めた国広正弁護士は、「隠蔽-責任転嫁-不祥事」の“小出し”という稚拙な対応を「最悪のフルコース」と表現する。
 危機管理の鉄則は「一度で悪いことをすべて出し切り、危機に立ち向かう姿勢を見せることに尽きる」としたうえで、「内部告発が社会に浸透した今、不正を隠し切ることはできない。危機管理は複雑なものではない。ウソが一番いけない」と指摘している。


5月31日22時0分配信 時事通信

 牛肉の産地偽装事件や料理の使い回しで経営が悪化、廃業した高級料亭「船場吉兆」(大阪市)の30代の元女性従業員が31日、大阪市内で記者会見し、客が手を付けなかった料理を料理人が毎回、別の容器に移していたことを明らかにした。

女性は「湯木正徳前社長が調理場で『何を捨てているんだ』と叱責(しっせき)しているのを聞いた」と証言した。

 女性によると、船場吉兆本店では28日朝、女将の湯木佐知子社長(71)が涙ながらに廃業の経緯を説明、謝罪した。弁護士が退職手続きの紙を配り、荷物をまとめて出て行くよう指示。その場にいた従業員はぼうぜんとしていたが、店の片付けや運び出しに忙殺されたという。女性は「説明もなく突然解雇された。とにかく説明がほしい」と訴え、会社側に交渉を求めた。