アサヒビールがバイオ燃料

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5月3日9時44分配信 産経新聞


 アサヒビールが将来、「エネルギー会社」になっているかもしれない。

 同社は通常よりも育成スピードが2倍速いサトウキビを使って「バイオエタノール」を大量生産する技術の確立を急ぎ、来年度にも量産に乗り出す。燃料販売が軌道に乗れば、少子化で国内ビール事業が縮小する中、それを補完する収益源になるとの期待もある。アサヒの燃料を使ったエコカーが街中を走り回る日も近そうだ。

 ■燃料も同じアルコール

 「普段、ビールを飲んでもらっている会社が、同じアルコールを使って環境負荷の低減に貢献したかった」

 アサヒのバイオエタノール技術開発部の小原聡主任研究員は、ビール会社がバイオエタノールに取り組む理由をこう説明する。

 バイオエタノールは、植物などを原料としてつくられるアルコール。サトウキビなどは生育過程の光合成二酸化炭素(CO2)を吸収するため、燃料として燃やしてもCO2を排出しないと見なされる。

 アサヒは、平成14年にサトウキビからエタノールを生産する技術の研究を開始した。きっかけは、13年に中期経営計画を策定する前に研究開発部門から集めたアイデア募集だ。

 その中で、当時、排水処理の研究担当だった小原氏は、大学院時代に研究し知識があったバイオエタノールの開発を提案した。アルコールの一種で、アサヒが長年ビール事業で培った発酵技術を使え、しかも環境にも優しいという「一粒で二度おいしい」事業。選別眼の厳しい経営陣からも研究開発に対してゴーサインのお墨付きを得た。

 ■収穫量2倍のサトウキビ

 ガソリン代替の自動車用燃料として世界的に注目を集めたバイオ燃料だが、需要の増大で原料のトウモロコシ価格が高騰し、世界の食料事情に影響を及ぼすという問題が浮上した。

 アサヒは生産性の観点から、バイオエタノールに最も適したサトウキビを使うことにしたが、食料への影響を避けるため、通常の品種とは異なる新種を使う道を選んだ。通常のサトウキビの収穫量は、1年半の栽培で1ヘクタール当たり60~80トン。これに対し、アサヒが選んだ品種は、1年栽培で1ヘクタール当たり100~120トンと、通常の2倍の収穫がある。これなら食料への影響を防ぎながらバイオエタノールを生産できる。

 17年12月には試験設備を完成させ、18年1月から沖縄県伊江島でこのサトウキビから取り出した燃料をガソリンに混ぜて自動車用に使う実証実験に乗り出した。

 ガソリンなど化石燃料から発生するC02発生量を抑制すると同時に、地域の農業・経済の発展にも寄与する「資源循環型社会」の実現が実験のテーマ。

 実験は22年3月末までの予定で、アサヒはこの成果を踏まえ、同年4月以降に量産設備を建設する方針だ。実験を通じて、「不作のときは食糧を増やし、豊作のときはエタノールを増産するなどの柔軟な対応をとり、農業従事者にとっても利益ある取り組みができることが分かった」(小原氏)と手応えを得ている。

 ■1リットル30円が目標

 課題はコスト。レギュラーガソリンの店頭価格は現在、1リットル当たり115円程度で、税金を除いた実質コストは60円超。アサヒのバイオエタノールは、実質コスト30円を目標にしている。

 現在は実験用の小規模農作地とプラントを使うためガソリンより割高だが、小原氏は「2000ヘクタール以上の大規模農地で、新種サトウキビの栽培を進めれば、1リットル30~40円も実現可能」と言い切る。

 新種のサトウキビは農林水産省に品種認定を申請しており、来年3月までには認可される見通し。量産設備は鹿児島県か沖縄県を候補地として検討し、「日本の食料とエネルギーの安定確保に貢献したい」と意気込む。さらに、海外進出も進める考えだ。

 アサヒのアルコールがビールジョッキではなく、自動車の給油口に注がれる日も近いようだ。(今井裕治)


個人の意見

 エタノールの精製は、酒造メーカーの得意ジャンルだろうし、醸造アルコール(連続式焼酎=甲類=)のノウハウがバイオエタノールに活かせるのではないかと思っていました。
 手先の器用さからメカニックの精巧さや、高水準のエレクトロニクスばかり取り沙汰されますが、発酵技術は、日本にとって伝家の宝刀ですよね。