群馬県水産試験場=水槽でセシウム半減期を調査




原発から190キロ、沼の濃度高く 「釣っても回収」苦渋の営業

 分厚い氷に専用のドリルで穴を開け、釣り糸を垂れる。「氷上ワカサギ釣り」の聖地ともいわれる群馬県前橋市の赤城大沼。例年より6カ月遅れの今月2日、ようやく「釣り解禁」となり、待ちわびたファンが駆けつけた。ただ、釣ったワカサギはすべて地元の赤城大沼漁業協同組合が回収してしまう。生きのいい脂ののったワカサギを天ぷらなどにして食べる釣り人の楽しみは消え、冬の風物詩はすっかり趣を変えてしまった。

 シラカバに囲まれた赤城大沼は東京都心から車で約2時間半。各地のワカサギ釣りは通常、秋口に解禁され翌年3月まで続けられるが、氷上で釣れる時期は限られる。赤城大沼は結氷期間が1~3月と長いことから、最近では釣りファンだけでなく、家族連れや若者にも人気だった。東京都心部などからバスツアーも出ていた。

 今冬の氷の厚さは60センチ超と良好。例年なら9月1日に解禁し、年明けから多くの客でにぎわうはずだった。だが、解禁はなかなかできなかった。解禁日直前の昨年8月、「安全性の確認を」と県が実施した検査で、赤城大沼のワカサギから暫定規制値(1キロあたり500ベクレル)を超える同640ベクレルの放射性セシウムが検出されたからだ。

 東日本大震災が生じた昨年3月11日の当日、多くの人がワカサギ釣りを楽しんでいた赤城大沼の氷に一気に亀裂が走り、その隙間(すきま)から沼の水が噴き上がって、氷上にカーテンが出現したような事態になった。ただ、釣り客らの服がぬれた程度でけが人もなく、ワカサギ釣りは翌12日の1日のみ、点検のために休業しただけだった。

 その後、起きた東京電力福島第1原発事故で、環境への放射能汚染の懸念は生じていたものの、赤城大沼は同原発から南西に約190キロも離れている。ワカサギが放射能で汚染されていると考える人などなく、思いがけない調査結果に、県や漁協関係者らからは「まさか」と、驚きの声が上がった。

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 県が昨年9月に実施した県内の湖沼にすむワカサギのセシウム含有量調査では、桐生市の梅田湖で1キロあたり222ベクレル、みどり市の草木湖で同189ベクレルと暫定規制値以下。それ以外の湖沼では検出限界値未満で、赤城大沼のワカサギの放射線量だけが突出して高かった。

 赤城大沼のワカサギは毎年3~4月、北海道の網走湖や長野県の諏訪湖から購入した卵を放流しており、検査対象となったワカサギは昨春放流して成長したものだ。

 一方、環境省が今年1月に発表した調査結果によると、湖底の泥から検出されたセシウムは、梅田湖で1キロあたり179ベクレル、草木湖で147ベクレルだったのに対し、赤城大沼では1260ベクレルに上った。ただ、みなかみ町の赤谷湖の湖底からは赤城大沼を上回る1690ベクレルのセシウムが検出されたにもかかわらず、ワカサギからセシウムは検出されていない。

 なぜ赤城大沼のワカサギだけ高い濃度のセシウムが検出されたのか。地元関係者の多くは、主に二つの見方を挙げる。

 「一つは淡水魚特有の事情。海水を大量に飲み込んで吐き出す海水魚と異なり、淡水魚は、えさから取り入れたナトリウムやカリウムを体内で維持しようとし、次第に放射性物質の濃縮が進む」と漁業関係者は指摘。「もう一つは、赤城大沼特有の緩やかな水循環のスピード。火山でできたカルデラ湖である赤城大沼は、ダム湖などと比べて水が集まる面積は狭いが、水の入れ替わりは遅く、湖底の泥も外に流れにくい」。赤城大沼の水がすべて入れ替わるには2年半かかるというデータもある。

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 前橋市中心部にある県水産試験場の屋外水槽で今、昨年11月下旬に赤城大沼で採取し、セシウムが暫定規制値を超えたワカサギが泳いでいる。水槽の水は地下水を掛け流しで使っており、えさは購入した冷凍のプランクトンを使用。水とえさに放射性物質の汚染がないことを確認している。

 「ワカサギの体内に入ったセシウムがどのくらいの期間で排出されるか、ある程度、推定しないと次に進めない」と、水産環境係主任の鈴木究真さんは話す。試験場では、1カ月ごとに定期的にサンプリングしてワカサギの汚染状況を調べ、セシウムの生物学的な半減期の調査を始めた。既に3カ月が過ぎたが、「まだデータを公表できる段階にはない」といい、長期的に調査を進める構えだ。

 ニジマスやコイ科などの魚は、チェルノブイリ原発事故が起きた際の研究があり、データも公表されている。しかし、ニジマスなどは、基本的にプランクトンを食べるとされるワカサギとは食性が異なり、活動の適水温などにも違いがあるため、単純に応用することはできないという。

 県蚕糸園芸課水産係長の久下敏宏さんは「生態系の中で、放射性物質がどのような動態で取り込まれていくかが明らかにならなければ、『赤城大沼のなぜ』は説明できない。今はすべて推測の段階」とする。予想もしなかった放射能汚染を受け、模索が始まっている。

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 赤城大沼のワカサギは結局、県の調査で2月26日に採取した分でセシウムが暫定規制値の500ベクレルを3回連続で下回った。調査を進めつつ、県や地元漁業関係者らは2月に入り、釣り解禁に向けて協議。ただ、釣り人の健康被害などを考え、念には念を入れ、釣る行為だけを解禁し、釣ったワカサギはすべて回収して、一部を調査に使い、大半を前橋市が焼却処分することを決めた。

 「赤城大沼の伝統のワカサギ釣りは『食べておいしい』というのが自慢だった。だが、釣り人のことや地元経済などさまざまな面を考慮し、苦渋の決断をするしかなかった」と、赤城大沼漁協組合理事の青木猛さん(48)は険しい表情で話す。「我々は、実際に放射能と向き合って生きていかなければならない覚悟はできている。我々には隠すことなど何もないが、放射能のイメージがついてしまうのは困る」【立上修】

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水槽で赤城大沼のワカサギを飼育し、生物学的なセシウム半減期を調査している群馬県水産試験場前橋市敷島町

個人の意見

>「一つは淡水魚特有の事情。海水を大量に飲み込んで吐き出す海水魚と異なり、淡水魚は、えさから取り入れたナトリウムやカリウムを体内で維持しようとし、次第に放射性物質の濃縮が進む」

ニジマスやコイ科などの魚は、チェルノブイリ原発事故が起きた際の研究があり、データも公表されている。
>しかし、ニジマスなどは、基本的にプランクトンを食べるとされるワカサギとは食性が異なり、活動の適水温などにも違いがあるため、単純に応用することはできないという。


プランクトンフィーダーの淡水魚・・・。


>釣る行為だけを解禁し、釣ったワカサギはすべて回収して、一部を調査に使い、大半を前橋市が焼却処分することを決めた。
>赤城大沼の水がすべて入れ替わるには2年半かかるというデータもある。


 釣り人は釣味優先で、食味はお土産に過ぎませんが、焼却処分といった殺生を望んでいるとは思えません。

 2年半のガマンか。