「アニソン好き」「嬢メタル好き」が恥ずかしくて人に言えなかった…失われた20年の苦い記憶【山野車輪】


9/30(土) 16:00配信

週刊SPA!

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<文/山野車輪 連載第5回>

◆メタル・クィーン浜田麻里がアニソンの代用品?

⇒【写真】浜田麻里森口博子

 80年代にヘヴィメタルを聴き始めた筆者にとっての入り口は、他のメタラーのように海外バンドではなかった。日本のアーティストであり、しかも女性シンガーの浜田麻里だった。嬢メタルの元祖である。

 だが、筆者がメタル・クィーン浜田麻里のアルバムを手にしたのは、最初はあくまでもアニソンの代用品としてだった。1971年生まれの筆者は、幼少時から『マジンガーZ』『鋼鉄ジーグ』『超電磁ロボコンバトラーV』など、ロボットアニメを好んで観ていた。そして中学生の頃にはアニメオタクとなっていた。

 その入り口となったのは、1983年放映のTVアニメ『銀河漂流バイファム』。ロボットアニメ版十五少年漂流記という趣きの物語である(同作は13人だったが)。その後『機動戦士Zガンダム』『メガゾーン23』『青き流星SPTレイズナー』など次々と発表されるロボットアニメを追いかけていった。これら3作品はすべて1985年発表であり、『超獣機神ダンクーガ』も同じ年だ。スゴイ時代だった……。

◆女性シンガー全盛の80年代ロボットアニメ

 ところで70年代ロボットアニメの主題歌は、その多くがサビでロボット名または作品タイトル名を連呼するパターンで、歌うのは水木一郎や、ささきいさおなどの男性シンガーだった。アニソンのこのようなパターンについては、「ジャパニーズ・メタルバンドが“自身のバンドのテーマ曲”を持っているワケ――『BABYMETAL DEATH』『X』『LOUDNESS』…」を参照いただきたい。

 だが、80年代のロボットアニメは、女性シンガーによる主題歌が主流となっていた。その頃のアニメオタクにとって中核を担っていたアニメは、株式会社日本サンライズ(現:株式会社サンライズ)制作の富野由悠季監督のロボットアニメ『聖戦士ダンバイン』『重戦機エルガイム』『機動戦士Zガンダム』だった。

 これらの主題歌はいずれも女性シンガーによるものだった。『機動戦士Zガンダム』の後期オープニングテーマ「水の星へ愛をこめて」(1985年)は、バラドル芸能人として誰でも知っている森口博子のデビュー曲だ。

 他にも、『超時空騎団サザンクロス』『超攻速ガルビオン』『星銃士ビスマルク』『超獣機神ダンクーガ』など、日本サンライズ作品以外のロボットアニメの主題歌も女性シンガーを起用するケースが増えており、そしてその多くがアップテンポの楽曲だったのだ。

 たしかに70年代の『超電磁マシーン ボルテスV』『宇宙魔人ダイケンゴー』『未来ロボ ダルタニアス』などのロボットアニメの主題歌も、女性が唄っていた(これら3作品はいずれも堀江美都子歌唱)。だが、正直この頃は、女性が唄っていることに違和感があった。しかし筆者が中学生になった頃は、「女性シンガーによるアップテンポの楽曲でなければならない!」と思うようになっていた。

 ところが80年代半ば頃からロボットアニメは減少し、またアニソンから“勇ましさ”や“勢い”がなくなっていった。『機甲戦記ドラグナー』『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』が、80年代女性ヴォーカルのロボットアニメ・ソングの末期だった。

 そこで筆者は、女性シンガーによるアップテンポな楽曲を求めて、レコードやCDを聴きあさり、筆者の理想とする音楽を探した。その結果、たどり着いたのが、浜田麻里……、つまり女性ヴォーカルのヘヴィメタルだったのだ。

◆メタル・クィーン浜田麻里から嬢メタルへ

 最初に聴いたのは、2ndアルバム『ROMANTIC NIGHT~炎の誓い』だった。LOUDNESS樋口宗孝プロデュースによる名盤であり、1曲目に、彼女の初期の代表曲「DON’T CHANGE YOUR MIND」が収録されている。

 ここから筆者は、女性ヴォーカルのジャパメタの発掘を開始することになった。SHOW-YA、Terra Rosa、魔女卵、ROSE、早瀬ルミナ、早川めぐみなど、いろいろと買い漁った。とはいえ、しょせんは高校生の財力であり、たかが知れているのだが。

 思い返すと小学生の頃、クラスの男子全体で、アマダの2枚10円のカードや、給食の牛乳ビンのふた、ビー玉などの収集に熱くなっていた時期があった(そういえば『ドラえもん』で、王冠コレクションの話があったな……)。筆者はそれ以外にも古銭収集、ギザ付き10円玉収集にもハマった。また藤子不二雄マンガの収集を始めたのも小学生の頃からで(『月刊コロコロコミック』の影響)、自転車で市内の古書店を回り始めた。

 嬢メタル収集のために、中古レコードを漁るようになったのは、その延長線上にあった。ちょうどこの頃、レコードからCDに切り替わる過渡期で、中古レコード屋やレンタルレコード屋、デパートの中古市などさまざまな場所で、レコードがゴミのような値段で投げ売りされており、少ない小遣いの中から買い漁った。だが、よく分からない世界だったので、ハズレも少なくなかった。だからこそ当たりのレコードは今も価値ある宝物となっている。

 音楽への入り口の時期に、レコードが投げ売りされていたことが、ここまでハマってしまった大きな要因だった。もしも、あと3年生まれてくるのが遅ければ、嬢メタル道を歩むことはなかっただろう。

◆アニソンの代用品として嬢メタルが必要だった切実な理由

 筆者が、現在で言うところの嬢メタルを聴きはじめたのは、アニソンの代用品としてだったが、アニソンの代用品を探すことに熱くなったのには、もうひとつの理由があった。

 それは、アニソンが趣味であることが「恥ずかしい」ことだと思っていたのだ。いや、思い込まされていたと言うべきか。

 かつてオタクは、オタクであるというだけで蔑視されていた。当時からのオタクは、誰でも経験していることだと思う。筆者が中学生の頃、アニソンのレコードを買ったところをクラスメートのヤンキーグループの一人に見られ、そのグループからバカにされたことがある。「中学生にもなってアニソンなんて聴くなよ」と。

 今ならば、「アニソンは番組の顔を担うにあたって、しっかりと作られた優れた楽曲である」と論理的に考え、また蔑視する連中に対してそのように反論もできる。だが当時の筆者は、アニメやオタク趣味に対する偏見や差別意識に対して無力だった。周囲のオタク蔑視の空気に乗せられて、「恥ずかしい」と思っていた。いや、思い込まされていた。

 その「恥ずかしい」との思いから逃れるため、偏見や差別意識から逃れるための突破口として、「アニソンではないが、アニソンのテイストが含まれた楽曲」を求めたのである。それが、嬢メタルだった。

◆嬢メタル、メロスピ差別の苦い体験

 筆者は嬢メタルにハマった。だがそれはしばらくして、また別の差別にさらされていたことを知る。嬢メタルとは、ヘヴィメタルの中では、馬鹿にされる存在だったのである! 一体どこまで筆者の趣味は嬲られるのか! 恥ずかしさから逃れるための嬢メタルも、「恥ずかしい」趣味だったのである。

 そこで今度は、洋楽ヘヴィメタルを本格的に聴き始めるのであった。「今や世界が熱狂する『ジャパニーズ・メタル』 長らく押し込められた暗黒の時代を振り返る」で書いたとおり、筆者は洋楽ヘヴィメタルの中でも、ジャーマンメタルのバンド群にハマった。後の“メロスピ”の起点となるムーヴメントである。そしてメロスピもまた、メタラー間では蔑視されがちなサブジャンルだった。

 インターネットによってメロスピ・ムーヴメントが可視化された2000年代頃は、筆者のメロスピ熱はすでに冷めつつあったが、仮に追いかけ続けていたならば、またも馬鹿にされる事態になっていただろう。ただしこの頃になると、もう偏見や蔑視については気に留めなくなっていたのだが。

 いずれにしても、筆者はこのような苦い体験を味わってきたこともあって、「偏見」や「差別」については特に否定的な立場である。

 しかし世の中は広いもので、自ら「差別されている被害者」と規定して、「差別の当たり屋」という「被害者ビジネス」を行なう連中が存在することを知る。そのような人たちの精神力には本当に感心させられてしまう。尊敬はしないけど。

山野車輪(やまの・しゃりん)】

昭和46(1971)年生まれ。平成17(2005)年『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)を出版し日韓関係のゆがみを鋭く指摘。『ニューヨーク・タイムス』、『タイムズ』など海外の新聞メディアでも紹介される。同シリーズは累計100万部突破。ヘビメタマニアとしても2ちゃんねるや一部メタラーの間で有名。

日刊SPA!

個人の意見

メタラーだったのか・・・。
>『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)
を電車内の中吊り広告で見て、購入。
気がついたら、その後に出続けた続編も全部読破していた。