日本清酒発祥之地


2月21日9時58分配信 産経新聞


 験(しるし)なきものを思はずは一坏(ひとつき)の濁れる酒を飲むべくあるらし(大伴旅人万葉集

 《なんの役にも立たない物思いをするより一杯の濁り酒を飲むべきらしいよ》

 およそ酒飲みの常套(じょうとう)句というのは、昔も今も変わらない。風流の歌人、旅人が愛したのはどんな酒だったろう。

 奈良市正暦寺に「日本清酒発祥之地」の石碑がある。古来朝廷が担った酒造りは、寺院で「僧坊酒」が生産されるようになり、中世には奈良の酒は高品質で名をはせた。寒造りや火入れなど、近代に至る醸造技術はそのころに確立されたそうだ。かつてお神酒として神社に納めていた「濁酒(だくしゅ)」を造り続ける蔵元、大倉本家を訪ねた。

 万葉集にも歌われた二上山のふもと、奈良県香芝市。旧家の重厚な門構えに酒造りのしるし、杉玉が揺れる。毎年11月、酒造りの神で知られる大神(おおみわ)神社で醸造安全祈願祭が行われ、真新しい杉玉が届く。杉は神木であり、お守りでもあった。青々とした玉が軒先に掲げられると「新酒できました」の合図。次第に茶色に変わっていくのも酒の熟成を知る目安となる。

 「普通、酒米を蒸しますが、濁酒はかまどで米を炊いて酒母をつくる水もと仕込み。蔵に住み着いた天然の酵母と乳酸菌に任せる昔ながらの酒造りです」という4代目、大倉隆彦さん。

 手間ひまかけた濁酒は注ぐととろり。馥郁(ふくいく)たる香りに神の恵みが宿る。(文 山上直子、撮影 門井聡)



2月22日12時30分配信 毎日新聞

 「春鹿(しか)会」発足50周年記念の例会に招かれました。地酒を楽しみながら奈良の文化を語りあう交流会です。「酒即是生 生即是酒」。辛党の心をくすぐるこの「人生訓」が、なるほどと思えました。
 会の発足は1960(昭和35)年2月。それ以降、毎月第2土曜日の午後、2時間に限って会員が集まって例会が開かれているのですが、私が招かれた例会まで約600回を重ねていました。会員の職業は問われません。当然、地酒を愛することが条件ですが、酒癖の悪い人はお断り、政治と宗教の話題はしないという不文律があるそうです。
 現在の会員は約50人。これまで、社寺や大学、研究所など奈良の文化に詳しい人はもちろん、警察・司法関係者や音楽家天文学に詳しい人までバラエティーに富んだ人が集まりました。その人たちが持ち回りで得意分野を話し、それを肴(さかな)に話の輪が広がっていくような会です。
 清酒発祥の地」とも言われる奈良ですが、会発足のきっかけは毎日新聞のOBで、帝塚山短大名誉教授の青山茂さんらでした。青山さんが毎日新聞奈良支局員だったころ、文化庁から県教委文化財保存課に派遣されていた課長から聞いた話が始まりです。
 この課長が、京都の酒造会社が文化人を招いて毎月開いていた酒の会に招かれたのですが、そこでは、歴史学者奈良本辰也氏(故人)や哲学者の梅原猛氏らが、酒を片手に肩書抜きで語り合っていたというのです。
 二人は、さっそく発起人を集め、酒の提供者として白羽の矢を立てたのが清酒春鹿醸造元「今西清兵衛商店」(奈良市)の今西清兵衛社長(故人)でした。今西社長は「それは面白い。商売は抜きで協力します」と快諾、会がスタートしました。
 会のことを知りたくて、故今西社長の息子さんで、現在は同社会長の今西清悟さん(78)を訪ねました。会長も会の歴史を見てきているだけに、楽しい裏話をたくさん聞かせてもらいました。
 それによると、発足にかかわった青山さんらは当時30代。「奈良の文化を語り合う」という目的はあったにせよ、「給料は安いが酒は飲みたい」という本音もあったようです。ただし、「我々は貧乏であるが、こじきではない」と、会は会費制になりました。
 また、例会は通常、同社隣にある「今西家書院」で開かれるのですが、それ以外にも、さまざまな場所で開催されています。例えば、酒を飲んだり肉を食べた人が門内に入ることを断る旨の石柱が門前に立つ尼寺での開催を試みたり、会員だった上田繁潔氏が県知事に当選した後、知事公舎にお邪魔したり。さらには、ある会員の提案で金魚の刺し身を試したこともあったそうです。「生臭くて食べられたものではなかった」そうですが……
 たんに「まじめ」なだけでなく、いろいろなことを面白がる人が多く集まっていたこと、そしてそこにおいしいお酒があることが、会が「長寿」である理由なのでしょう。冒頭の「酒即是生 生即是酒」は、故今西清兵衛氏の人生訓だったそうです。酒造りの伝統を守りながら、奈良の文化の発展と人間関係作りを応援した粋人だから言える境地です。
 それに比べ、春鹿会と同じ年に生まれたにもかかわらず、いまだ酒に飲まれることが多い私です。それでも、この場を借りて50周年のお祝いとともに会が今後も末永く続くことをお祈りしたいと思います。乾杯!【奈良支局長・山内雅史(yamauchi-m@mainichi.co.jp)】


個人の意見

 いつか、奈良へダクシュを戴きに行きたいですね~。