地震の前に、不吉な兆候が競り場で確認されていた
「カサゴやアラやクエといった海底にいる根魚が突然、競り場に多く並ぶようになりました。今から考えれば、海底の異変を察知して浅瀬へと逃げ出してきた根魚が大量に網にかかったのでしょう。その当時は『巨大地震が来るんじゃないか』と話をしていたんです」
「まずホテル、居酒屋、寿司店などの取引先の店で向こう1ヵ月分の婚礼、歓送迎会、接待といった宴会予約がキャンセルになりました。そのせいで、こちらで受けていた注文も全部キャンセル。震災から数日間は“売り上げゼロ”の状態でした」(A氏)
震災後、ゼロになったのは店の売り上げだけではない。築地のあの“新名物”も場内から消えてしまったのだ。ある寿司店の店主が嘆く。
ホテルや居酒屋、外国人観光客……。市場の買い手がいなくなると同時に、競り場に並ぶ魚介類も激減した。仲卸業者B氏がこう話す。
さらにB氏が続ける。
「築地に7社ある大手卸会社の1社は三陸沖のカキの被害額が数億円に上るようです」
「北茨城沖で採取したコウナゴから基準値を上回る放射性物質が検出されました(4月11日時点。その後は基準値を下回る)。そのせいで大半の漁師が休漁に入り、茨城産の魚介類は1匹も入らない状況です」(仲卸業者C氏)
この原発被害はさらに南へと広がっていく。
「なんでコウナゴなんだよ! あんな小魚が被曝したら、中型の魚のエサになった後、大型の魚が食い荒らす。1が10、10が100、100が1000って規模で“被曝連鎖”が進むかもしれない。客もそれを恐れて、今日の築地じゃ、イカ、タコ、マグロ、タイ、カキ、カツオ……全魚種が売れなかったよ。放射能汚染の風評被害で魚離れがハイスピードで進んでしまっているのさ」(仲卸業者D氏)
基準値超えが報告されていない千葉県産もアウトだ。
「いま、客は『千葉』って聞くだけで買わない。居酒屋もレストランも外食全体が“千葉アレルギー”に陥っているよ。まったく売れねえ。取引先のホテルのなかには『駿河湾(静岡県)から北側で獲れた魚は入荷しない』ってひどい客までいる」(D氏)
「築地に出荷しても需要がないから値がつかないと判断され、中部地方以西のほかの市場にほとんど流れてしまうんです」(D氏)
「震災の影響で市場を管轄する東京都に廃業届を出した店は20店舗強に上ったようです」(前出・A氏)
そんななか、今も営業を続ける仲卸業者をより不安にさせているのが計画停電だ。
被災地における漁師の操業再開も前途多難である。
「茨城の鹿島灘のハマグリ漁師が『海に潜らせろ!』って市場の卸会社に申し出てきましたが、市場側は『絶対に潜るな』と出漁禁止令を解く気配がありません。また、宮城のトロール漁船も何隻か動き出す準備はあるのですが、底引き網で海底をさらうと遺体まで引き揚げかねない。原発問題と遺体捜索。ここが決着しないと彼らは漁を再開できないのです」(前出・B氏)
「震災直後にゼロになった売り上げは震災前の4割程度まで回復しました。被災して大変な状況にある荷主(漁師)は私たちが支えなきゃいけないんです!」(A氏)
こうした厳しい状況下にあって、都は4選を決めた石原都知事の下、築地市場の移転予定地、豊洲の土地買収を粛々と進めている。築地、そして日本の水産業の復興のため、行政がやるべきことはもっとほかにあるはずだ。
個人の意見
>「カサゴやアラやクエといった海底にいる根魚が突然、競り場に多く並ぶようになりました。今から考えれば、海底の異変を察知して浅瀬へと逃げ出してきた根魚が大量に網にかかったのでしょう。その当時は『巨大地震が来るんじゃないか』と話をしていたんです」
振り返ると、アレは予兆だったのかと思うことってありますよね。