絡まる釣り糸/空き缶が“家”

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8月20日15時45分配信 産経新聞


 ■水中写真家・伊藤勝敏さんと潜る

 海に投棄されたゴミを利用してたくましく暮らす生き物を撮影している、水中写真家の伊藤勝敏さん(72)が作品を集めた本を出版した。海の環境破壊が危惧(きぐ)される中、美しい景観で知られる京都・舞鶴湾で、伊藤さんのダイビングに同行し、実態をのぞいた。(写真報道局 頼光和弘)


 伊藤さんは15年ほど前、海底に沈んだ空き缶を巣にして生息するハゼのカップルを見つけた。缶の中をライトで照らしてのぞき込むと、ハゼが卵を産み付けているのが見えた。

 「空き缶を家にしているのか。やりよるな。これも、ひとつの生き方」と感心したという。

 以来、各地の海に潜り、水道のホースを巣穴にするギンポや靴の中に身を潜めるベラなど、ちゃっかりとゴミを利用して、たくましく、したたかに暮らす生物の姿を撮り続けてきた。

 環境問題についてユーモアを交えて訴える伊藤さんの作品の数々は、今年7月、図鑑「どっこい生きてる、ゴミの中 たくましい海の魚たち」(保育社)として出版された。

 8月半ば、伊藤さんの案内で舞鶴湾に潜った。

 風光明媚(めいび)な舞鶴湾だが、海底には、さまざまなゴミが沈んでいた。空き缶やポリ袋、プラスチック製の容器などの生活ゴミが多い。なかにはバッテリーや看板も。

 スチール製の缶はさびて茶色く変色し、アルミ缶は変わりなく海底で鈍い光を放っている。ウミガメやイルカが、クラゲと間違って食べてしまうポリ袋は、海面から差し込む光の乱反射を受け、さらに透明感を増しているようにも思えた。

 岸に近い海底を泳ぐと、片方の足が何かに引っ張られた。古い釣り糸が足に絡まっていた。周辺を見渡すと、沖に向かって何本もの釣り糸が海底に張り巡らされる光景が広がっていた。まるで、何重にも仕掛けられた罠(わな)のようだ。

 ゴミと“共存”する生物はさまざま。石の代わりにさびた空き缶に乗る巻き貝、テングサホンダワラなどの海藻とカキの貝殻にびっしりと覆われた古タイヤ…。海底と同化したようなゴミに混じって、蛍光色のプラスチック片が、変わらぬ光をあちこちで不気味に投げかけている。

 海の変化を見続けてきた伊藤さんは、「空き缶の数が増えたのは、自動販売機が普及し始めたころから。モノが安くなって、価値がわからんようになって、簡単に捨ててしまうようになったんかな」と話す。

 見えないから、ヒトに訴えることの少ない海中の自然。しかし、海へのポイ捨ては、確実に環境をむしばんでいる。


個人の意見

 海だけの問題ではありませんよね。
釣り場にゴミを捨てないで(by 西沢美奈さん)。