不文律「代用魚」


産経新聞 2月24日(月)8時0分配信


 外食メニューの表示偽装問題を受け、消費者庁がまとめた外食メニュー表示のガイドライン(指針)案で、反発を招いた「サーモントラウト」の表示。「ニジマス」と表示するよう求めていたものだが、反発の大きさに同庁は指針案を見直す方針という。すしネタの「サーモン」は生で食べられるサーモントラウトによって定着した。業界関係者は食品の特性を踏まえたルールを考えてほしいと訴えている。(平沢裕子)

 ◆養殖だから生食可

 ニジマスはサーモントラウトの標準和名。指針案ではサーモントラウトをサーモンと表記した場合、「標準和名はニジマスなのにサケと認識され、問題」としている。

 食の安全・安心財団の中村啓一事務局長は「トビウオは標準和名がトビウオだが、九州や日本海側ではアゴと呼ばれるように、市場に流通する名前と標準和名が異なる魚は多い。食材としての名前と標準和名が異なることが必ずしも消費者を偽っていることにはならない」と指摘する。

 サーモントラウトはニジマスを海面養殖(沿岸の海水を使った養殖)で大きくしたもので、ニジマスであることは間違いない。ただ、淡水魚のニジマス寄生虫の心配から生で食べる習慣は一般的でなく、同様に天然のサケも刺し身で食べる場合は凍らせたルイベにする。すしネタの「サーモンにぎり」は、養殖のサーモントラウトが日本で安定的に供給されるようになったことで定着したメニューともいえる。

 「サーモンにぎりとしてサケ科の魚を生で食べることができるのは、寄生虫の心配がない養殖のサーモントラウトならでは。多くの人が淡水魚と認識する『ニジマス』の呼び名ではすしネタで食べたいと思う人はいなくなるのでは」(中村事務局長)

 ◆アブラガニは減少

 標準和名の表示しか認められなくなったことでスーパーなどで販売が減ったものにアブラガニがある。タラバガニと外見が似ているアブラガニは、かつて「タラバガニ」「アブラタラバ」の名前で、タラバガニより2割程度安い値段で販売され、「安くておいしい」と人気があった。

 しかし平成16年、アブラガニをタラバガニの名前で売ることが景品表示法違反(優良誤認)となり、これをきっかけに標準和名のアブラガニの名前でしか売れなくなった。スーパー関係者は「タラバもアブラも味はそれほど変わらない。でも、アブラガニの名前では聞こえが悪いので売りにくくなった」と打ち明ける。消費者からすれば、安くておいしい食材を買う機会が減ってしまった。

 サーモントラウトなどを海外で養殖し、輸入販売しているカマンチャカ(東京都中央区)の三橋平典代表は「事業者は消費者がおいしく感じるような名前をつけて販売してきた。嘘の名前はだめだが、食材としての魚の名前は文化に属するものだけに食品の特性を踏まえたルールを考えてほしい。また、一度決めたものに対しても異議を述べたり再検討したりする場も設けてほしい」と話している。

 ■アレルギー表示 トラウトはサケ

 サケは食物アレルギーを起こす物質を含む食品の一つ。原材料として使ったとき、アレルギー物質として表示義務がある「特定原材料」ではないが、準ずるものとして消費者庁は通知で表示を推奨している。昨年9月に同庁がまとめたQ&Aでは、サケの表示は「海から取れるもの」を対象としており、ニジマスイワナなど淡水でのみ生活しているものは対象外とした。

 サーモントラウトをニジマスとみなすならアレルギー物質としての表示はいらないが、実際はサーモントラウトも他のサケと同じくアレルギーの原因となる。中村事務局長は「消費者庁内で魚の表示ルールをめぐって整合性が取れていない。食物アレルギーは命にかかわることもあるだけに、指針内容を丁寧に検討してほしい」と話している。


ニジマス「シャケ弁」安けりゃOK? 基準あいまい(02/06 13:59)
テレ朝news
ニジマス「シャケ弁」安けりゃOK? 基準あいまい(14/02/06) - YouTube

 メニューの偽装表示を巡るガイドライン案について、森消費者問題担当大臣はニジマスを使ったシャケ弁当は問題ないとの認識を示しましたが、基準はあいまいで、更に混乱を招く可能性もあります。

 森消費者問題担当大臣:「高級なレストランの宴会に行って、スモークサーモンのサラダと思って食べていたらトラウトサーモンだった。それが小さくであろうと、どこにも説明(表示)がなかったというような事例と、誰でも買って安価で買って楽しんでいるシャケ弁当とはまた別の話だ」
 消費者庁が作ったガイドライン案では、「ニジマス」を使った場合、メニューに「サーモン」と書くのは問題だとしていました。これに飲食業界が猛反発したため、森大臣は「分かりやすくする」と強調しました。しかし、「安価なメニュー」の基準はあいまいで、ガイドラインを巡って更に混乱する可能性も出てきました。



J-CASTニュース 1月29日(水)19時1分配信


 「鮭(シャケ)」と名前のついた数々のメニューが改名されるかもしれない。消費者庁は、公表したメニュー表示のガイドライン案の中で、サーモントラウト(標準和名:ニジマス)を「鮭」や「サーモン」として表示することについて景品表示法上「問題」と指摘した。

 サーモントラウトはあまり聞きなれない名前だが、弁当の具材や寿司ネタとして巷ではすでに広く出回っている。関係者からは見直しを求める声もあがるが、実際に口にする消費者は賛否両論のようだ。

■日本で流通しているのは海中養殖のもの

 消費者庁は、ホテルや百貨店で食材の偽装表示問題が相次いだことを受け、2013年12月にメニュー表示にまつわるガイドライン案を作成した。過去にあったケースを中心に35の具体例をあげ、景品表示法上問題となるかどうかをそれぞれ示している。そのうち必ずしも問題にならないとしているのは、解凍した魚を「鮮魚」と表示するなど4例のみで、多くの中華料理店で発覚した「バナメイエビ」を「芝エビ」と表示するケースをはじめ、一般的なねぎを「九条ねぎ」、牛の形成肉や牛脂注入肉を「ビーフステーキ」または「ステーキ」と表示するといった31例は全て「問題になる」と指摘する。

 2014年1月27日には東京都内で意見交換会が開かれ、外食産業の関係者や消費者団体の代表などがガイドライン案の内容について話し合った。報道によると、意見交換会に出席した消費者団体からは、何を食べているか分からないのは問題だとして「本当の名前をしっかりと表示してほしい」という意見が出たという。しかし一方で外食産業側からは、一部食材についてはすでに名称が認知されているために「表示できなくなることで消費者を混乱させてしまう」という懸念もあったそうだ。

 中でも議論を呼んでいるのが、鮭(シャケ)、サーモンとして使用されることの多い「サーモントラウト」だ。主にチリやノルウェーなどで養殖されるサケ目サケ科の食用魚で、日本では「ニジマス」の和名がついている。身はピンクがかったオレンジで、味にもくせがない。淡水のみで生息する「陸封型」と海に下る「降海型」がいるが、一般的に日本で流通しているのは海中養殖のものだという。

 ガイドライン案では、「魚介類の名称は原則として種ごとの名称(標準和名)を表示することが推奨されている」とした上で、サーモントラウトは標準和名が「ニジマス」であり「サケ」の魚とは異なる魚介類とされるとして「問題になる」との見解を示している。13年11月には、藤田観光が「スモークサーモン」など複数のメニューで「サーモン(鮭)」ではなく「サーモントラウト」を使用していたとして謝罪している。

吉野家牛鮭定食「特に変更する予定もございません」

 ところが、外食産業側からはこの見解に戸惑う声が相次ぐ。意見交換会では、「消費者はニジマス白身魚との認識が強い」「市販のスモークサーモンの大半はサーモントラウトである」として見直しを求める意見が複数あがった。実際に、切り身を焼いた「シャケ弁当」や、寿司でも人気の高い「サーモンのにぎり」、コンビニで販売される「鮭のおにぎり」などにも使用される例が少なくない。たとえば、大手コンビニチェーン「ファミリーマート」では以前から一部商品で使用しているという。28日に発売されたばかりのおにぎりも原材料名には「サーモントラウト」と記されているが、商品名はあくまで「魚沼産コシヒカリ 鮭ハラス」となっている。

 また、牛丼チェーン「吉野家」で提供されている「牛鮭定食」には、販売開始以来「サーモントラウト」が使われているが、消費者への案内は特にない。広報担当者に話を聞いたところ、「一般的に海で育てば『サケ』、川で育てば『マス』とされていますので、弊社で使用している海水養殖のサーモントラウトもそれに則って『サケ(鮭)』と表記しています。間違っているという認識はなく、今のところ特に変更する予定もございません」という。とはいえ、仮にガイドライン案どおりとなれば、今後これらの商品は「サーモントラウトにぎり」「牛ニジマス定食」などの表示に変更せざるを得なくなりそうだ。街の弁当屋からも場合によっては「シャケ弁」が消えるかもしれない。

 一般消費者からは「ちゃんと正しい魚の名称使えよ」「これは正直に表記すべきだろ。メインなんだし」「食材、聞き慣れない名前になっていいよ。正確な方がいいよ」という声がある一方、「どこまで厳しくするかは考え所なんだろうな」「最近の消費者がヒステリックすぎるのではないか」と擁護する声も上がり、意見が分かれているようだ。なお、すでに「改名」している弁当屋もあるようで、タレントのクリス松村さんは1月27日のブログで見慣れない名前の「トラウト・サーモン弁当」を食べたと報告し、「シャケはシャケで、ニジマスニジマスの良さがあって、両方とも美味しいわけですから、これで、一件落着ですね」と綴っていた。



宝島 2月7日(金)18時28分配信

 食品偽装がニュースを賑わす現代ニッポン。中でも回転寿司ネタは永遠のグレーゾーンとされている。日本ならではの代用魚文化、その代表種を玄人の視線で大紹介!
日本のお家芸・代用魚

 食品偽装問題がメディアを賑わす昨今、<偽装のトップランナー>と外食業界で言われ続けているのが<代用魚>だ。回転寿司のコストカットに一役も二役も買い、回転寿司を外食の王様に押し上げてきた立役者でもある。元消費者生活センター勤務の飯塚茂樹さんは、代用魚は食品偽装ではないの? という疑問にこう答える。
食品表示を偽れば違法になりますが、タイ(鯛)とお品書きにあっても、お役所向けの店内書類に<エソその他加工>と明記されていれば、ギリギリ法には触れないというようなグレーゾーンなんです。歴史を遡れば、明治時代に政府のお墨付きでソウギョをタラなんかの代用魚にしたこともあり、代用魚は、いわば日本のお家芸なんです」
 では、このお家芸と長年、卸業と現場でネタとして付き合ってき<代用魚の通>に登場願おう。築地市場仲買人歴53年である岩瀬康夫さんと、寿司屋Tで41年間カウンターに立ち続けた平野元さんだ。

イメージ 1


あなたが食べている魚は本物!? 「マグロ=マンボウ」「真鯛ティラピア」の実態・・・
マグロの代用で人気急上のアカマンボウ。大型深海魚で釣りでは珍重。形は似ているがマンボウではない。
■アカマンボウ

岩瀬「マグロの代用といえばアカマンボウ。こいつ、マンボウって呼ばれてるけど深海魚でリュウグウノツカイの仲間なんだ。漁師に聞いたり、知り合いの学者に言わせると謎の深海魚らしいね」
平野「え? それは私も知らなかった。2メートル超えて、300キロのアカマンボウ那覇で見たけど、表面はタチウオみたいにギラギラしててね。ヒレと眼の周囲が真紅なんですよ」
岩瀬「アカマンボウは傷がつきやすくて流通的に難しかった。だから市場では敬遠されてきた。だけど切り身にしたり、即加工が可能になってマグロの代用にされ始めた。この5、6年の間に急成長した魚」
平野「歯ざわりは似てるけど、ちょっと濃いかなあ……腹を生で出すと中トロくらいの脂分を感じる。背肉はムニエルとかで出す」
岩瀬「外食でしか出回りにくい魚だな。消費期限が短いし漁獲の絶対量が少ない。流通網が整ってないとダメ。回転寿司チェーンはアカマンボウ用の加工流通を整備して対応してるから安くお客さんに出せる」
平野「珍重魚から外食の花形代用魚になりつつある代表選手ですね」

ナイルパーチ・アカメ

イメージ 2


岩瀬「スズキの代用、ナイルパーチはアフリカの淡水魚。デカいんだ、2メートルクラスが釣り上げられてる」
平野「白身魚のフライと呼ばれるものの肉はコレです。2003年のJAS法改訂でスズキと表示しちゃダメってなりました」
岩瀬「アカメ、メヒカリはスズキの生食代用で回転寿司で見かけるね。生態じたいも河口に棲んでるし、とっても近い。南西諸島でたくさん獲れてるアカメモドキって小型のアカメが最近は流通量が増加してる。バラマンディって近縁種は輸入されてるけど、スズキと食べ比べて分かんない味」
平野「輸入物、養殖物では問題なしですけど、国産天然アカメは絶滅危惧種に指定されているほど希少。これは代用乱獲の結果だと疑われています。裏業界でウナギの密漁が取り沙汰されましたが、天然アカメはマイナーだから注目されなかった」
岩瀬「アカメの稚魚密漁は問題だよ。組織的に行われていて、ウナギの一件と同じ奴らが絡んでいるんだ。ヤクザのしのぎにも使われている」


ティラピア
イメージ 3

欧州や中東では大衆魚であるティラピア。焼くと美味しい魚。ナイル種は最もメジャーで観賞用にもなっている。

平野「ティラピア真鯛の代用で、寿司屋からは『あんなニセモノ』って冷たくあしらわれてきた魚。だけどギリシャとか行くと普通に食べられてる大衆魚なんです」
岩瀬「川魚でタイと呼べる代物じゃないのにイズミダイとかチカダイって名前で店に売られていたんですよ。国内養殖されてたけどコスト高と真鯛の養殖普及で近年は敬遠されてます。輸入物はまだ安いから代用に使ってる回転寿司店もある。身に臭みはないし、味は普通にイケる」
平野「焼き物で使えば下手な養殖鯛より美味いと言っていいほど美味しい」



 ウナギの希少化、マグロの高騰など話題に事欠かない漁業界だが、品薄・値上がりがあれば代用魚という図式はこれからも変わらないという。

(記事の全文は『月刊宝島』2014年3月号に掲載)


取材・文/岸川真


個人の意見

>メニューの偽装表示を巡るガイドライン案について、森消費者問題担当大臣はニジマスを使ったシャケ弁当は問題ないとの認識を示しましたが、基準はあいまいで、更に混乱を招く可能性もあります。

 鮮魚売り場で切り身になっている「代用魚」たちを長年に渡り不文律でスルーしてきたわけだが、なぜ今まで問題にならなかったのか、そして問題になっても「それはいい」と再スルーしなければいけないのか。
 そこには決して触れてはいけない、大人の事情があるのだろう。